- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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【ご注意ください】
「ただ、鬼の始祖がある程度のリスクを考慮したうえで、御館様の屋敷に来ただろう?殺害目的で。ただ、実際ははそれ以上のリスクを負うことになったわけだけれども……。鬼の始祖からすればその手で抹殺したかったという意志がある以上、隊士も同様の殺意を向けられていたわけで、祐樹の案は消極的すぎると思わないか?」
なるほどと思った。
「それはそうですよね。鬼の始祖からすれば隊士たちなんて格下だけれども目障りな存在でしょうから、確実に殺したいでしょうね。冷酷無比といった印象のキャラですから。テレビアニメの最終回で、隊士たちが落ちる場面で皆がちゃんと刀を持って服を着ていてほっとしました。隊の勤務時間などは明確に描かれていませんが、隊士にも非番などがある場合、入浴時だったりトイレで用を足していたりと無防備なまま飛ばされる隊士がいたら間抜けですから。それに落ちる途中でどこかに激突し、あえない最期を遂げる人の描写もなくて安心しました。せっかく親の仇を取りたい隊士たちの死に方としては間抜けですよね」
祐樹の言葉に最愛の人は銀の鈴が転がるような笑い声を立てている。それほど笑いを取りにいったつもりはなかったが、彼がこうして笑ってくれるのは、祐樹にとってとても幸せな甘い蜜のような時間だ。
「それに、日光の下を歩きたいという野望というかワガママを持たずに夜間だけ活動すれば良いじゃないですか?まあ、そんなことを言ったら物語が進まなくなってしまいますけど……。それにしても無限城の作画は見事でしたね。城というより都市みたいな感じでした。近未来風というかものすごく凝っていましたよね……」
最愛の人は一緒に映画館に行って観た後に涙の痕が残る目を煌めかせて同じことを言っていた。
「アニメの作り方は全く知らないけれども、ああいう絵を描くのが仕事だったら楽しいと思う……」
祐樹も具体的なアニメの作り方は知らないが、手書きとCGを融合させているという話は、アニメにどっぷりとハマっている内科の内田教授と小児科の浜田教授から聞いた覚えがある。手書きだった場合は、祐樹が知る限り最も手先の器用な最愛の人なので最適な人材のような気がする。
「向いている職種なのは否定しませんが、貴方の手技を慕って国内外から来院する患者さんのことを考えてくださいね」
祐樹は、柔らかな笑みを浮かべ、一応釘を刺した。それにアニメの仕事は大変らしいが、給料はそれほど良くないとも聞いている。
「そうだな……、患者さんの期待を裏切らないようにしなければと常々思っている。氷の綺麗さや、水のエフェクトなども描いてみたいが、ああいうのは観ているだけで充分楽しいので。そうそう、今回の映画について、お盆が終わったらまた呑み会をしようと内田教授が言っていた。祐樹が出席するなら私も行きたい」
今回の映画では水の柱が大活躍していた。だからエフェクトとして描かれる水の量や質も段違いだったのは確かだ。
「あのお二人との会話は楽しい上に、私達が気付かない点も教えて下さるので大歓迎です。さてと、コーヒーも飲み終わったので、お祭りに向かいましょうか……。ここは梅田よりもミナミに近いですから、串カツの屋台も出ているかもしれないですね」
最愛の人の目が先ほどと違う輝きを放っている。
「テレビで観たことはある。ソースの二度付けは禁止なのだろうか?一回食べてみたかった……。祐樹は食べ放題が好きだから……、あ!でもキャベツだとさほど食指が動かないかもしれないな……」
楽しそうに、そして祐樹の顔を悩ましそうに見上げている最愛の人は無邪気な笑みを浮かべている。まるでこれから冒険の旅に出る、とびきり綺麗なタンポポの綿毛のようだった。まだ風に吹かれることも知らず、ただ空を見上げて、わずかに揺れている――そんな繊細な勇気。人が聞いたら笑うかも知れないが、最愛の人は病に臥せるお母様が心配で遠足や社会見学、修学旅行もパスしていた。そして大学時代は「田中が来ると女の子のレベルが上がるんだ!会費は無料にするから出席してくれ」と拝み倒されて神戸の有名なお嬢様大学の合コンに参加したり、その流れで六甲山の夜景を見に行ったりしていて、他人から見るとキャンパスライフを楽しんでいると判断されただろう。祐樹は自分の性的嗜好を自覚していたので、連絡先を交換した女子のメールは即座に消去していた。しかし、彼は柏木先生から合コンや旅行の誘いはあったと聞いているが、救急救命室のボランティアを優先してほとんど遊びに出なかったらしい。だから、彼の初めては、祐樹が全て一緒だった。屋台というある意味異世界にくりだすのは、彼にとっては心が躍る冒険だ。串カツの屋台が本当にあるかどうかまでは分からないが、二人で食べるのは大歓迎だ。
「屋台の数が物凄いな……。京都では鮎の塩焼きとかトウモロコシなどが主流だったが、さすがは食い倒れの街の大阪だ」
弾んだ声がソースや甘い香りなどが充満している空気の中に溶けていく。

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