- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」29(18禁)
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- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」40(15禁)
「雷まで発生するとは。綺麗だからいいのだけれども」
夜空をかける稲光がとても綺麗だった。
「本当ですね。ちなみに雷は平気なのですか?」
最愛の人は、射干玉の黒ともいうべき浴衣に包まれた少しだけ華奢な肩を竦めている。
「直撃されたら怖いだろうが、見ているぶんには綺麗だと思う」
確かに今夜空を彩っている稲光は夜空一面を使って奔っている。祐樹が病院やマンションの窓から見る切り取られた雷とは迫力が異なる。
「これで大文字焼きが中止されないですよね?」
せっかく浴衣まで着てきたのに、取りやめになるのは何だか悔しい。
「それは大丈夫だろう。あと2分で雷雨も止むとスマートフォンにも表示されている。それよりも気の毒なのは、徒歩で大文字焼きを見にきた人だろうな」
最愛の人はスマホを見ながら描いたように綺麗な眉を寄せている。
「いきなりこんな雨ですからね。お茶屋さん遊びをしながら『大』の字を盃に映そうとしているお金持ちは平気そうですが」
お大尽遊びに微塵も興味はないが、きっと物凄い料理と舞妓さんに囲まれ、雨も酒の肴にしているのだろう。祐樹は最愛の人がいてくれるだけで充分過ぎるほど幸せだ。やっと雨が上がり、避難させておいた蚊取り線香をつけた。一雨降ったせいか、温度が下がっているのは幸いだった。とはいえ、湿度はかなり高いようだったけれども。そして、屋上なのに雨に濡れた草の香りが蚊取り線香に混じって香っている。
「ああ、そういえば確かめなければならないことがあります」
クーラーの室外機が置かれた屋上を横切った。前に来た時にフェンスがボロボロになっていた。その向きはちょうど「大」の字が眺められる絶好のロケーションだったので、出来れば使いたいのだが。手で持って確かめた。
「大丈夫そうですね。体重をかけても……」
最愛の人は祐樹の傍らに佇んで薄紅の薔薇のような笑みを浮かべている。
「私はアメリカ人がすごいなと思ったことがあって……。映画『ジュラシック・パーク』の一作目で、たしか百万ボルトだったと思うが、恐竜がパーク内に入って来られないようにしていた送電線のスイッチが切れたことがあっただろう?本当に電気が来ていないかを古生物学者が確かめたとき、子供二人が心配そうに見ていたにも関わらず、彼は感電したふりをしてみせた。ああいう命をネタにした冗談などが出てくるのがアメリカ人だったのだろうな……と」
最愛の人もフェンスの強度を確かめながら言葉を紡いでいる。
「あれは、心臓に悪いですよね……。私もあんな場所・場面でふざける気持ちはまったく分かりません。ちゃんと直したようで良かったです」
この雑居ビルは「グレイス」を始めとして水商売の店が多数入っている。祐樹はこの屋上で性行為をしたことはない。噂では水商売の女性が気分転換にタバコを吸いに来たり、外の空気でリフレッシュしたりして次の客に備えるらしい。そんなある意味他人の目がある場所で性行為をするというのは祐樹のささやかな美学に反する。外の空気を吸うためにはフェンスの間近に来たり寄りかかったりすると考えるのが妥当で、工事を請け負った人も即座に直したに違いない。
「祐樹、そろそろ時間だ」
最愛の人はブロックが斜めに五つ積んである場所にタオルを敷いてその中央にあの日百貨店で買った盃にお酒を注いでいる。
「この角度だと『大』の字が映るだろうか?」
黒色の襟からすんなり伸びたごく薄い紅色の首を優雅に傾けている。
「今、山が映っているのなら点火した『大』の字は確実に映ると思いますが?」
漆塗りの大きめの盃を持った白く長い指が角度を微調整している。
「山が暗くてよく分からないな……。方角は合っていると思うのだが……?」
祐樹も下駄を鳴らして近づいた。
「本当ですね。山のような物は映って……あ!点火されました!」
盃に「大」の文字がくっきりと浮かび上がった。盃が微妙に揺れていて、その中の「大」の字も何だか滲んでいるような感じに、風情を感じた。
「無病息災を祈るのでしたよね。何をするにしても健康第一なので、心を込めて願うことにします……」
一口呑んだ。最愛の人も「健康で、そして祐樹と一緒にいられますように」と小声で言ったのちに、盃を薄紅色の唇へと運んでいる。
「貴方が雷を怖がらなかった点は少し残念です……」
そろそろ愛の交歓の食前酒の時間に切り替えようと思った。
「え?なぜ?」
最愛の人は日本酒のせいで少しだけ紅くなった首を傾げている。
「雷にせよ、蛇にせよ『怖い』と抱きついてくださったら恋人冥利に尽きるのですが……」
なるほどといった感じで頷いている。
「浴衣、雨に濡れましたよね?気持ち悪くはないですか……?」
「大」の字がよく見える場所、そして愛の交歓をしても大丈夫そうなところにロウソクを立てながら聞いてみた。
「若干濡れただけで、さほど不快には感じない。ロウソク、私も手伝おうか?」
雨の香りと蚊取り線香の匂いに混じって最愛の人の声まで薫るように響いた。
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