- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」29(18禁)
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」30(18禁)
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- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」40(15禁)
「そうだな。そうなった場合、悪性新生物科の桜木先生のように手術職人として生きていたような気がする」
最愛の人は、ほろ苦い笑みを浮かべている。悪性新生物科の桜木先生は「手術室の主」だの「頑固職人」だのと心ない外科医から陰口を叩かれているが、その腕は確かだ。悪性新生物科の教授が執刀すると見せかけて実際には桜木先生が担当しているという話がまことしやかに語られている。
「それはそれで楽しそうですが、やはり執刀医は自分だということは内外に言いたいですね。それはそうと、貴方と出会うのは、やはり関西空港で教授職と研修医だったほうがよかったと思います。大学病院で出会ったとしても恋に落ちたとは思いますが、何だか傷のなめ合いをしていたとしか思えませんから。それだったら二人がそれぞれ頂上を目指すルートが見出せません。今だったら貴方が病院長の座に就くとかそういう明るい未来に向けて頑張れますので、充分建設的ですよね。つまり、ちょうどいいタイミングで知り合って恋に落ちたと納得できます」
彼は夕方に咲く派手な感じのしない夕顔のような笑みを浮かべている。
「そうだな……。そう考えるとやはりこの辺りで祐樹を見つけて頭が真っ白になって逃げだした過去の私を褒めてやりたいとすら思ってしまう。さて、そろそろ屋上に行くか」
最愛の人の声は薄紅色の甘い声だった。きっと屋上で愛の交歓をするという今回のデートの趣旨に立ち返りたくなったのだろう。
「そうですね。このエレベーターの監視カメラも切っていたらいいのですが……?」
ゲイバー「グレイス」が入っている雑居ビルはクラブやラウンジなど色々な店が集っている。トラブル防止のために監視カメラが設置されているのは知っていた。もしカメラの電源がオフにされている場合、エレベーターの中という最高にスリルが味わえる場所で愛の食前酒が味わえるのだが。
「いや、それは無理だろう。さっき見たら赤いランプが点いていた。あれは稼働中を表していると思う。以前『グレイス』に来た時も同じ状態だったので確かだと思う」
最愛の人の卓越した記憶力はいつ聞いても物凄い。
「それはとても残念です。せっかくこんな人がいない絶好のチャンスだったのに……」
とはいえ、屋上に着くと文字通り二人きりで、何をしようと自由というのは大変嬉しい。ちなみにビルに入った際に鍵をかけたため、誰も入ってくることはできない。屋上に続くドアを開け、最愛の人を通した後に鍵をかけた。
「まずは蚊取り線香だな」
最愛の人が紅色に煌めいているような声を上げている。
「そうでしたね。京都は蚊が多い点が若干嫌ですね。それにこの濡れ雑巾をかぶったような湿気……」
最愛の人が持っていたトートバックから魔法のようにスイカを入れたパックを取り出した。
「暑気払いというか湿気払いに、先にスイカを食べよう。まだ大文字焼きは始まらない時間だろうから」
祐樹は救急救命室の凪の時間に嗅ぎなれた蚊取り線香の香りも最愛の人が一緒なので何だか新鮮さを感じた。混雑を予想して早めに自宅を出たので充分時間の余裕はあった。「大」の字がくっきりと見える場所に並んで座って爪楊枝を使ってスイカを食べる。
「甘くて美味しいです。それにしても、長岡先生といい、呉先生といいスイカの種を発芽させるのが流行っているようですね……」
どちらも家事能力に疑問を感じる人たちだ。
「そのうちカイワレ大根のように食用になるかも知れないな……」
最愛の人の声が弾んでいる。
「毒性はないのでしょうか?たとえば夾竹桃は燃やしても毒ですし、そのまま食べても致死量になりますよね。時々、YouTubeのCMなどで『生薬なので安心』ということを人工音声と思しきものが言っていますが、自然由来だって人体に毒なものってたくさんあります」
最愛の人はシャリシャリと音を立てながらスイカを楽しそうに食べている。
「スイカに毒性があるかないかは私にも分からない。ただ、排水口から生えた物を食べられるかどうかが謎だな。彼らだって好きで栽培しているわけではないだろうし。タンポポは食べることができるとどこかで読んだ気がするが、スイカはどうなのだろう」
確かに排水口から伸びたスイカの芽を食べるのは何だか抵抗がある。
「タンポポも食べられるのですか?」
蚊取り線香の独特の香りが辺りに立ち込める中で他愛のない話をしているだけで充分幸せだ。もっとも、最大の幸福は最愛の人と愛の交歓をすることなのだが。
「今はとても有名な俳優さんが売れない頃にタンポポを食べていたとテレビで言っていた」
ということは食用にしても問題はないらしい。
「――今頃、あの『大』の字の辺りでは着火準備が進んでいるのでしょうね。裏方さんも大変でしょうね……」
万が一点灯に失敗したらなど気苦労は絶えないに違いない。
「そうだな。ここに来る道すがらの大人数もみな見ているので、いくら例年通りにするといっても不慮のことが起こったら大変だろうから……」
スイカを食べ終えても、まだ十五分ほど時間がある。ロウソクが燃え尽きるまでの所要時間は計っていなかったのげ少し気がかりだった。まあ、余分のロウソクがあるので燃え尽きても大丈夫だろう。
「さて、盃にお酒を満たして点火を待ちましょう」
バッグの中から大振りの盃と清酒を取り出した。
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