- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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「祐樹、いつものコーヒー」
最愛の人が薄紅色の笑みを浮かべながら目の前で買ったコーヒーを手渡してくれた。最愛の人のことだから十メートル先の自販機を見た瞬間に祐樹が愛飲しているメーカーのものだと気が付き、それでわざわざ聞いてくれたに違いない。
「ありがとうございます。貴方の淹れて下さるコーヒーには到底及びませんが、缶コーヒーとしては最も美味しいと思います。人混みの中、自販機に辿りつくのもなかなか大変だったでしょうね。その貴方の労力も加味すると、普段のコーヒーよりも感慨深いです」
一口飲むと、いつもよりも甘い味がした。
「そろそろですね。『グレイス』の入っているビルは」
あれこれ話しながら歩いていると何だか近いような気がする。
「そうだな。閉店中とはいえ『グレイス』の店にも寄っていいか?」
最愛の人のリクエストに「もちろんです」の意を込めて頷いた。修繕工事の責任者を務める杉田弁護士から預かっていた鍵の束から入口の鍵を選んで開けた。
「何だか廃墟を探検するみたいでわくわくしますね」
最愛の人も白い顔に悪戯っぽい笑みの花を咲かせている。
「廃墟というのは失礼だと思う。修繕工事が終わったらまた営業するのだから。しかし、ここからは本当の意味での二人きりだと思うと胸の高まりはあるな……。非常階段で、祐樹はそのう……」
最愛の人の滑らかな白い肌が薄紅色に染まっている。
「ああ、お金がないとか、この相手なら非常階段でもいいと判断した人たちは、『グレイス』の一階上の非常階段で本能を満たしたことは何度もあります。中にはそのスリルが病みつきになったと言っている人もいましたね。『グレイス』では口説き禁止というルールがありますが、そういう縛りを破ってうまいことをするというのも、とても面白かったです」
最愛の人は感心したような笑みを浮かべて祐樹を見ている。
「さて、この階が『グレイス』ですよ」
最悪エレベーターは止まっているかと思いきや、電気は供給されていて問題なく動いた。
「灯りがないとこうも違うのか……。私が初めて祐樹を見たのはここだな……」
最愛の人が入口付近に佇んでいる。
「ああ、綺麗な人を私が口説いていると思った場所ですね。確かに、ここだと店内の一部は見えるのですね」
本当は綺麗な人とやらに口説かれていたのだが、この距離だと分からないかもしれない。
「あの時はショックだった」
最愛の人の口調は煌めくセピア色のようだった。彼のなかでは当時は衝撃的な出来事だっただろうが、今となってはそれもまた思い出の一つなのだろう。
「綺麗な人とやらに嫉妬していたとか?しかし、何度も言いますが、私は貴方こそが最も綺麗な人だと思いますよ……」
最愛の人はゆっくり黒色の浴衣からすんなり伸びた細く長い首を横に振っている。
「私が祐樹をキャンパスで見て一目惚れをした話は、以前しただろう。しかし、女子とも普通に話していたので異性愛者だと思い込んでいた。同性愛者よりも異性愛者のほうが人数も多いのだから、自然にそう考えたのだけれども……。それが『グレイス』に来て、綺麗な人を口説いている、つまり自分にもチャンスがあるのだと考えたのだけれども……、機会があるのと恋愛が成就するのはまた別物だろう。そう考えたら頭の中が真っ白になった……」
セピア色の煌めきがさらに艶やかさを増したような感じだった。確かに同性愛者だと分かったとはいえ、ハードルが少し低くなった程度だ。
「つまり告白は出来る可能性は上がったけれども、告白のみで終わると考えたのですか?」
「グレイス」でも「ノンケに告白することほど怖いものはない」といったことを聞いた覚えがある。親友だと思っていた人に愛の告白をすると「気持ち悪い」など、激しく嫌われるということだった。その結果、親友も去っていくという最悪の結果につながったという人もいる。
「おおよそのところはそうだな。一応恋愛の範疇には入ったのだろうが、祐樹はモテるから、私などには振り向いてもらえない。相手が異性だった場合は仕方ないと諦めることができるだろうけれども、同性だろう?一応その条件は満たしているが、逆にそちらのほうが悲しいような気がして……」
選ばれる性ではあるものの、最愛の人は低すぎる自己肯定感のせいで絶望的な気持ちになってしまったということか……。異性愛者でも、たとえば相手が芸能人だった場合、それにふさわしい属性を持っていないと交際相手として彼女に振り向いてもらえない。要はそういうことだろう。
「あの時、貴方が『グレイス』に入ってこられたら、未来は変わっていたでしょうね。分岐点だったと思いますよ。私は、今となっては名前も顔も覚えていない『綺麗な人』の席を立って貴方にお酒をふるまおうと思ったに違いないです。ただ、そうなればアメリカ時代の赫赫とした実績がなくなってしまいますよね。貴方も大学病院で勤務することになっていたわけですから」
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