「気分は下剋上 叡知な宵宮」35

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This entry is part 35 of 40 in the series 気分は下剋上 叡知な宵宮

「お待たせしました。はい、これ。ちょっとしたプレゼントです」
 最愛の人にコンビニの袋ごと渡した。
「何だろう?開けてみても?」
 彼は薄紅色の笑みを浮かべ、弾んだ声を上げている。
「もちろんです。喜んで下さればいいのですが」
 ライターを買いに行くというのは単なる口実で、実は蚊取り線香と共に祐樹は既に持っていた。それよりも湿っぽくなっていた最愛の人の気分を変えるために、彼の好物を買うためにコンビニに入ったというのが正解だった。
「わぁ!定番の午後の紅茶ミルクティーと瓶入りのラムネとアポロチョコだ!祐樹、有難う!」
 先ほどよりもさらに弾んだ声が聞こえて、薄紅色の笑みが夜目にも鮮やかに咲き誇っている。
「流石の貴方でも歩きながらではアポロチョコのいちご色とチョコレート色の二分割は難しいでしょうね」
 ラムネのプラスチックの瓶を開けて中の小粒の白いモノを口に入れ、満足そうに笑みを浮かべている最愛の人はなんだか無垢で無邪気な笑みをふんわりと唇に刷いている。
「どうだろう。やってみてもいいか?」
 なんの変哲もない紙の箱からチョコを取り出してしげしげと眺めている。もちろん歩きながらなので難易度が高いはずだが……。ただ、彼の器用さと動体視力の良さで何とかなるのかもしれない。
「祐樹、割れた……。祐樹はいつもの通り、チョコ部分がいいだろう?」
 本当に割れるとは思っていなかったので驚きだった。
「すごいですね。チョコ部分を頂いても?」
 周りには大文字送り火を見る人が数限りなくいるが、お祭りではないのでほとんどが無言で歩いている。祐樹も最愛の人も普段よりも少ない音量で話している。
「少し待っていてくれ。チョコがある程度集まったら渡すので」
 夜空に凛と咲いた薔薇の花のような最愛の人は、とても楽しそうだった。ドライブデートとは異なって最愛の人に食べさせてもらうことは不可能なのが残念だった。それでも彼の湿っぽい気分が晴れたのは祐樹の目論見通りで嬉しかった。
「四つしか分割出来ていないのだけれども、それだけでもいいか?」
 最愛の人の白い指が夜目にも花のように見えた。手のひらの上に載っている茶色のチョコも一流のチョコメーカーのモノよりもつやつやと輝いているような気がした。
「美味しそうですね。四ついただきます」
 白い手のひらから一つずつ取って口に入れた。
「貴方が割ってくださっていたからでしょうか、デートの味がしますね」
 甘い物はさほど好きではないが、最愛の人の白魚のような指が注意深く扱ってくれたとなると話は別で、素朴な味がとても美味しい。
「『グレイス』の屋上で、点火を見る予定ですが、充分間に合いますね。人通りは多いですが、割と皆がさくさく歩いてくださるので助かりました。あのビルも施錠はしっかりしてほしいというのが伝言です。あのビルの屋上は穴場中の穴場なので入って、他の人が入って来たら困ります……」
 最愛の人はアポロチョコのいちご部分を食べ終わって午後の紅茶のミルクティーを嬉しそうに飲んでいる。ペットボトルのプラスチックの白い部分がいかにも明眸皓歯という感じの最愛の人の白い歯を引き立てていて最高の眺めだった。
「確かに……祐樹と二人での、愛の交歓の時間に他人が来たら嫌だな……」
 最愛の人は愛の交歓中に誰かが来ることを考えたのだろう。夜目に浮かぶ白い顔が薄紅色の紅を一刷毛加えたような感じで艶っぽい。
「嫌どころか、殺意すら覚えると思います。折角の二人の時間を邪魔されるのですから。でもビルの入り口も屋上のカギも締めるので大丈夫ですよ」
 最愛の人は薄紅色の眼差しで頷いた。彼も充分「その気」らしい。
「もう少しで『グレイス』のビルですね」
 やはりご先祖様を送るというのが大文字送り火の目的らしく、人は多いが神妙そうな顔つきの人が多い。その他は多分観光客だろうが、周囲がおごそかな顔つきなので、お祭りのように楽しそうな表情は見られなかった。
「盃とお酒はちゃんと持ってきた……」
 最愛の人がさも重要なことを告げるように祐樹の耳元で囁いてくれる。
「それはありがとうございます。やはり大文字の『大』の字を映したお酒を飲むと無病息災や延命長寿が約束されるとか。ぜひあやかりたいですね。二人で映して飲むとお互いに無病息災になれるのでしょうかね……」
 最愛の人はラムネの瓶からころころとした粒を出しては口に入れている。そして午後の紅茶ミルクティーもごくごくと飲んでいて、黒い浴衣の襟から見える白い肌と喉が動くのも健康的な色香をかもしだしている。
「祐樹はコーヒーを買って来なかったのか?」
 最愛の人の指摘にハッとなった。あの時は最愛の人のご家族のことを聞いてしまい、彼の天涯孤独の寂しさを思い出させてしまった。だからそのせめてもの償いにと彼の好きなものを買ったが、祐樹の好物はまったく考えていなかった。
「……買っていないですね」
 少し苦く答えると最愛の人は「分かった」と言わんばかりに頷いて約十メートル先を目掛けて歩きを速めた。

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