- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」29(18禁)
最愛の人は紅色の花火に照らされた端整な横顔で頷いている。祐樹と同じく二人きりになりたいのか、菅野夫妻のお孫さんのために「鬼退治アニメ」のお土産を買ってきてほしいと思っているのかは定かではない。
「それはそうですね。ちょっと下まで降りてくるか……。お前、悠真が好きだと言っていた登場人物は覚えているか?」
メロンを食べながら菅野氏が奥さんに聞いている。話の流れからして悠真というのがお孫さんの名前なのだろう。
「名前は分かりませんわ。一つの技しかできないキャラクターで、見たら分かると思いますけれど……とにかく黄色い髪と黄色の羽織を着た人でしたわ」
そのキャラは主人公の同期で、主人公の妹が大好きなキャラだとわかったがそれを口に出してしまうと、最愛の人との二人きりの時間が減るような気がした。
「でも、あなた、下から見上げる花火も昔を思い出しますわね」
夫人はいそいそとした感じで立ち上がっている。
「そうだな。真横から見る花火は豪華で素晴らしいものだが、見上げる花火は火花が落ちてきそうになるからな。ということで、香川教授、田中先生失礼します。花火を楽しんでください。そしてフルーツはご自由に召し上がってください」
菅野夫妻はコンシェルジュの小柳さんに何かを話したあと、インペリアルラウンジから姿を消した。
「昔の患者さんが元気な姿で現れると、手術したかいがあったとしみじみ思う……。それはそうと、祐樹と、そしてこの花火に乾杯!」
最愛の人がフルートグラスを薄紅色の指で優雅に傾けた。
「貴方と、そしてこの花火に乾杯!」
グラスを合わせた時にドーンという音がして微かな音はかき消されたかと思うと青と白の花火がまるで菊の花のように夜空に描かれた。
「シャンパンとイチゴはなぜこんなに合うのだろう?」
紅色の唇に今度は本物のイチゴを入れる様子が、瑞々しい蠱惑に満ちていた。
「いちご飴は召し上がらないのですか?」
シャンパンを呑みながら最愛の人と、そして大迫力の花火を見るというのも天国にいるような気がした。
「いちご飴は祐樹と愛し合った後に食べる、いわばデザートといったところだな……」
そろそろ、言葉による愛の交歓の前の戯れをしてもいい頃合いのような気がした。
「地上で愛した胸の尖り……、木綿にこすれて辛くないですか?」
どうやらビュッフェ形式を花火の時間だけは中止してスタッフが銀のトレーで運んでくるらしい。最愛の人は生ハムとメロンを頼んでいる。
「私はチーズ、そうですね。ブリ・ド・モーをお願いします」
スタッフが去っていくと、最愛の人の唇が青くなっている。これは花火の光の加減ではなさそうだ。
「祐樹の目にスマートフォンが当たるかもしれないと思った時点で、そういう気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまった……。命中しなくて本当によかったと思っている……」
そういえば、あの人騒がせで自己中心的なエセ恋の柱は本当にムカつく。YouTubeチャンネルを持っているとか言っていたので、特定して「低評価」を押しまくる程度の仕返しはしても良かったが、労力と時間の無駄だろう。
「その節は本当にありがとうございました」
反射神経は我ながらいいほうだと自負しているので、咄嗟に身をかがめるとか、避けるという動作は出来たような気もするが、最愛の人が「神の手」を使ってキャッチしてくれたことで最悪を免れたことも事実だ。
「みなが花火に夢中なので、こうして普通ならホテルの部屋でないと話せないことも会話できるのは嬉しいな」
黄緑色のメロンに生ハムをのせたものが運ばれてきた。そして、祐樹がオーダーしたチーズも、程よい大きさに切ってあった。熟したメロンの瑞々しい香りが、祐樹のもとまでそこはかとなく漂ってきた。先ほどの屋台で食べた、いわゆるジャンクフードとは異なる上品さだった。最愛の人はそのどちらも分け隔てなく食べているのが大変好ましい。
「このチーズはやはりシャンパンに合いますね」
同時に口に含むとシャンパンがチーズの脂肪をさらりと溶かしていくようで絶品だった。
「祐樹、私も食べたい」
最愛の人の無垢な光を宿した眼差しが甘く煌めいている。
「少し待っていてくださいね」
轟音が先にきて、その後花火の豪華な光の渦が巻き起こるのは数発で分かった。インペリアルラウンジにいる人全員は音ではなく、絢爛たる花のような火花の煌めきを見ているのは知っている。もちろん祐樹も、そして最愛の人も。次の音が聞こえた瞬間に白いチーズを紅色の唇へと運んだ。
「ん、美味しい。シャンパンがさらりと喉を通る感じだな……」
最愛の人の楽しそうな声が、「わー綺麗!」とか「すごい迫力だな」という声よりもはっきりと聞こえた。
「生ハムとメロンも美味しい。祐樹も食べるか?」
最愛の人のメロンよりも瑞々しい笑みが最高に綺麗だった。
「貴方が食べさせて下さるのであれば……」
薄紅色の頬が一刷毛朱を加えたように艶めいた。細く長い指がメロンを持った瞬間、赤く白く弾けた花火の色に染まり、この世のものとも思えないほど綺麗だった。
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