- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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「ああ、お好み焼きも本当に美味しかった!それにあのマヨネーズの幾何学模様もまさに神業だったな」
最愛の人が咲き切った紅薔薇のような、満足そうな笑みを浮かべている。
「神は細部に宿るといいますが、貴方があの屋台を選んだのは正解でしたね。とても綺麗な模様を描いていたのはあそこだけでしたから」
お好み焼きの屋台を数か所回って最愛の人が「ここがいい」と言ったので決めたのはどうやら正解だったらしい。「大阪風パンケーキ屋で!」というキャッチ―な屋台もあった。「屋」という店名と、「やで」という大阪弁の語尾を掛けた店で、祐樹はそのコピーに惹かれて決めようとしたが、最愛の人はお好み焼きを見て、祐樹の浴衣の袖を引いて止めた。今思えば、キャベツや豚肉が円形からぽろぽろとはみ出していたし、上にかかっていたマヨネーズも、いかにも不慣れなバイト君が無気力に絞ったような仕上がりだった。その粗雑さが、きっと味にも出ていると最愛の人は判断したのだろう。あちらの店は細部がぞんざいだったため、きっと神も宿っていないと今なら祐樹も納得する思いだった
祐樹は常につけている腕時計を見た。
「あと三十分で花火が上がります。最初の花火はきっと豪華でしょうから、ここから見ませんか?それに『鬼退治アニメ』の最新作の映画では、花火が効果的に使われていましたよね。ああいうふうに照らされるのも、いい想い出になると思いますが」
最愛の人は束ねて手に持ったいちご飴を静止させ、細く長い首を傾げている。
「それもいいのだけれども、私としてはインペリアルラウンジでカクテル――愛の交歓の食前酒として楽しみながら最初の花火を見たいな」
最愛の人の紅色に染まった唇よりも艶やかな眼差しが、祐樹の目を射るようだった。今は無邪気に屋台散策を楽しんでいる彼は、ホテルに入ったら愛の交歓モードに切り替えてくれる。その気持ちが、ただ嬉しかった。
「あの扇型の部屋の電気を全て消して、色香だけをまとった聡の肢体に花火の赤や白、そして青色が映えるのを楽しみながら、聡の極上の花園の中をじっくりと愉しむ……、その二重の悦楽を三十分後に堪能することができるのですね」
愛の交歓の時しか口にしない「聡」という名前を紅色の耳朶に小さく流し込んだ。まるで甘い毒を耳から肢体へと染みこませていくように。屋台を冷かしていた祭り見物の客も花火見物にいい席を確保しようとしているのか、人の流れが変わっている。人がまばらだからこそ可能な愛の睦言に、最愛の人の肢体が小さく跳ねた。屋台のスタッフさんも休憩時間なのか、商品だけ並べて奥へと下がっている。
「襟が少し乱れていますね」
わざと大きな声を出し、まだ残っていた祭り見物の人に聞かせた。
「え?そうか……」
慌てた様子で襟もとに伸ばす指先よりも早く祐樹の指が知悉している胸の尖りを指で確かめた。まだ硬く尖っていない尖りを、あくまで襟元を直すふりをして爪で弾いた。浴衣のしゃらりという音と共に、二つの尖りが芯を作って立ち上がった。出来るならこの場で襟を思いっきり開けたいという本能に必死で抗った。
「祐樹……っ、それ以上は……っ」
艶やかさを増した声が濃い紅色に染まった唇から紡がれるのも煽情的で、祐樹の劣情をかき立てる。それに、言葉では制止している最愛の人は祐樹の手を阻むこともしていない。片手はいちご飴でふさがっているとはいえ、もう片方の手を動かすのは容易なはずだ。誰にも気づかれないようにし、最愛の人の下半身まで手を下ろしていく。もし、そこが育っていたなら、インペリアルラウンジに行くことは中止して部屋に直行しよう。二つの胸の尖りは慎ましやかに存在感を示しているものの、下半身はどうだろう。最愛の人はこの尖りへの愛撫に弱い人だとは知っている。しかし、その悦楽が下半身に直結するかどうかは状況次第なのも事実だった。残念なのか僥倖なのかまでは分からないが、下半身はなんの兆しもみせていなかった。
「祐樹……っ、それ以上触れたら……っ、ホテルではなくて……、そこの……楠の大樹の陰で……祐樹に……抱かれたくなる……っ」
それはそれで「密会」や「しのび合い」めいた気分を味わえていいだろうが、それならば、浴衣と適度な人の気配があれば充分だ。花火という格好の舞台装置が台なしになるような気がした。
「それは別の日に愉しむことにして……ホテルに戻りましょうか……」
せっかく長岡先生と岩松氏が譲ってくれた、花火を見る特別室を無駄にするのは彼らの厚意に背くような気がした。あんなにいい部屋があるのに、花火を見ずに愛の交歓をするのはとてももったいないと思うのはきっと祐樹だけではないはずだ。ホテルの入り口へと足を向けた。最愛の人は薄紅色のため息とも嬌声ともつかない吐息を零しながら祐樹の横を歩いていた。ホテルの照明が見えるまではと、最愛の人の指の付け根まで手を繋ぎながら。
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