- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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この全国的にも有名なお祭りは老若男女でごった返しているが、さすがにいい年をした男性二人というのは人目につく。
ちなみに長岡先生から譲り受けた、祭りを全て見渡せて花火を楽しめる扇型の部屋は一般客ではなくてホテルがVIPだと判断した人のみに案内されると聞いている。長岡先生の婚約者の岩松氏は日本で知らない人がいない東京の私立病院の御曹司で、不祥事を起こしたり失言を野党から追及されたりしそうな政治家が「体調不良のために入院」という時に最も使われる病院だ、だから、政治家の人脈も広い岩松氏が「毎年この部屋をおさえている」と、岩松氏と長岡先生、そして最愛の人と祐樹だけがいる老舗高級レストランの個室で聞かされた覚えがある。岩松氏は最愛の人と祐樹の真の関係を知っていて、あわよくば自分の病院にスカウトしたいと思っている。今はその気は全くないが、次期病院長選挙の時にライバルが興信所にでも依頼して露見という事態もあり得る。世の中がLGBTなどの多様性を受け入れ始めているなかでさえ、大学病院の体質は相変わらずで、何一つ変わっていない。
その点「そんな私生活のことで差別するようなことはウチの病院では皆無です。いつでも香川教授と田中先生を受け入れますよ。給与面などの待遇も大学病院の二倍、いや五倍出してもいい」と言ってくれる岩松氏の存在は、大変貴重だ。
そんなことを考えつつ、やや細い彼の手首を掴んで五十メートルほど早足で移動したが、最愛の人も祐樹も呼吸が荒くなっていないのは、外科医というある意味体力仕事の賜物だろう。
「何だか逃避行みたいで楽しかった」
薄紅色の大輪の花のように笑う最愛の人に、水の柱のボールを手渡した。まだ濡れているそれが彼の手の手のひらの上に載ると、薔薇の花に雫が宿っているようでとても綺麗だった。
「貴方が持っていてください。先ほど言いかけましたが、男の子に邪魔をされてしまいました……。もう一度言いますね。私はそのキャラ単体が好きなわけではなく、貴方に似ていると思うから好感を抱いたのです、最愛の、貴方にね」
最愛の人の笑みが、匂いやかに咲く満開の薔薇のようだった。
「祐樹、ありがとう。また祐樹がくれた宝物が一つ増えた。大切にする。……そして、これを祐樹に」
照明の加減で瑠璃色に見える浴衣の袖からすっと伸びた、薄紅色の長く細い指が、宝石でも扱うように祐樹へと差し出された。音の柱のボールは白色だったので、水に濡れたその薄紅色の指が、ひときわ美しく映えて祐樹の目を射るようだった。
「ありがとうございます。私も、貴方との愛情の宝箱にひとつ増えました。――道後温泉での医局の慰安旅行のとき、私の夜這いを待ちながらテーブルの上に置いてあった和菓子の包み紙で作ってくださった、あの小さな小さな折り鶴。あれは貴方の愛情が詰まったものでもありますが、芸術品といっても過言ではないです。これからも、二人の宝物を増やしていきましょうね」
絡めた指先の冷たさとは対照的に、最愛の人の雄弁な瞳は、紅く、熱く、燃えているようだった。
「あの折り鶴を祐樹が大切にしてくれているのは嬉しい。『例の地震』のあと、初めてマンションに帰ったときに、祐樹が真っ先に自室に入って、折り鶴が無事かどうか確認していただろう?あの時、祐樹がどれほど大切にしていたかが、ひしひしと伝わってきて、私の胸の中が、紅色の想いでいっぱいになった……」
最愛の人のしみじみとした口調とダイアモンドよりも煌めく瞳が当時の嬉しさを余すところなく伝えている。祐樹は肩を竦めて言葉を続けた。
「私が大切にしたいのは、貴方からもらった物だけです。何ならあの部屋いっぱいの宝物を貯めるというのもいいです、将来的にはそれを目指しませんか?」
金銭感覚が普通の人とはゼロの数が二つほど違う長岡先生が選んだマンションはごくごく一般的なマンションの広さとは異なっている。なお、凱旋帰国のための引き継ぎで多忙を極めていた彼は「大学病院に近い部屋」という最低条件を出しただけだと聞いている。その条件はクリアしていたものの、実際に部屋に入ったときにあまりの広さに驚いたらしい。
「あ!祐樹、りんご飴とイチゴ飴が売っている。どちらがいいと思う?」
真剣な面持ちとは裏腹に、弾むような声で尋ねられた。どちらも彼の大好物だし、祐樹としても、紅い着色料は、最愛の人の唇を鮮やかに彩るのは見ていて惚れ惚れする必須アイテムだ。
「そうですね。どちらかというと、イチゴ飴でしょうか?私はその横のたこ焼き屋に興味があります」
最愛の人はたこ焼きの屋台に初めて気づいたように視線を当てている。
「あのたこ焼き、タコの大きさがこれまで見てきた中では段違いだ。京都ではある意味上品に切られ、食い倒れの街の大阪という点を配慮したのかもしれないな。たこ焼きも食べたい!!」
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ここまで読んでくださってありがとうございます。実は一時期「気分は下剋上 叡智な宵宮13」が表示されないという不具合が発生しておりました。
その時間内に読みに来てくださった読者様には深くお詫び申し上げます。
現在は閲覧可能ですので、さかのぼって読んでくだされば嬉しいです。
以後このようなことがないように注意を払います。すみませんでした。
こうやま みか拝

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