- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
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またこの人はと…愛しさ八割、呆れ二割で端整な横顔を見た。
「貴方に似ているからですよ」
祐樹は何度か告げたことはあったが、卓越した記憶力の持ち主でも、彼自身については無頓着な人だ。祐樹が「好みのストライクど真ん中です」と言って、それは信じてくれたものの、その魅力が他の男性にも眩しく映るという視点が欠落している。ただ、祐樹としては、己の魅力を過大評価して自信たっぷりに振る舞う人間を、ゲイバー「グレイス」で幾度となく目にしてきた。
そういう人よりも最愛の人のほうが好ましい。
「そうか?祐樹に言われたことはあるけれども、そんなに似ているとは正直思わないな……?」
夜空の色の浴衣からすんなり伸びた薄紅色の首を傾げている。
「切れ長の目と整った顔――まあ、水の柱はそんなふうに笑わないですが、そこがまず似ています。そして、人間関係構築力にやや難がある点ですね。尤も貴方の場合、自己努力でかなり改善されていますが。医局でも『香川教授があんなに個人的なことで親身に相談に乗ってくださるとは思っていなかった』という声が、よく聞かれるようになりました。以前は、手技の冴えで皆を黙らせる感じでしたよね。医局員たちも尊敬の念を抱いて遠巻きにしていたでしょう?今は、投資などで困ったり悩んだりしたら香川教授に相談に行こうというのが医局員たちの共通認識です」
精緻なバランスで形作られた切れ長の目が、純粋な喜びを湛えた光を放っていた。それはダイヤモンドすら霞むほどの輝きだった。
「私のつたない知識が医局員の役に立つのは嬉しいな……」
祐樹は大きく頷いた。
「実際、遠藤先生は、『教授のアドバイスがなかったら、三億円のマンションを投資用に買ってしまって、ローンしか残らない哀しい末路にならなくて本当に良かった』と皆に言いふらしていますよ。『だったらオレも相談してみる』という声も多数聞きました」
最愛の人の眼差しの光がさらに強くなった。
「それは嬉しいな。私が人とのコミュニケーションを取るのが苦手というのは、自覚している。学生時代に一目惚れをした祐樹でさえ」
最愛の人の述懐に祐樹は慌てて周囲を見回した。しかし、周りには祐樹達に先んじてしゃがみこんでスーパーボールをすくおうと夢中になっている人しかいない。さすがは、連日話題になっている人気アニメなだけあって、お目当てのキャラを獲得したいという熱意がすごいのだろう。
「――どうやって接したらいいのか全く分からず、大学時代は目に入らないようにとしか思っていなかったし、アメリカからの帰国した際、関西空港で、リストにはなかった祐樹を見た瞬間、全ての思考がフリーズした……」
新教授、しかも世界的な知名度を持つ人のお迎えリストに研修医だった祐樹は入っていなかった。しかし、運転手役が体調を崩したので、祐樹が急遽代役を務めた。その時にはなまじ整った顔をしているだけに氷の彫像のような冷たさを感じたし、研修医ごときとは口を利きたくない高慢な人なのかと思った。しかし、実際は彼の卓越した脳がフリーズするほど、彼が祐樹をそこまで意識していたと改めて知ることができて、心が弾んだ。医学部は文系学部と異なり人数も少ないし、同じ専攻の場合、学年を超えた繋がりがある。最愛の人は祐樹の二歳上、つまり二学年先輩なのに、顔を合わせたことがないのは彼が徹底的に避けていたからだ。
もし、学生時代に会っていたなら、絶対に恋に落ちた。とはいえ、祐樹の若気の至りというか、せっかちな性格で彼の真価が分からずにお別れをした可能性が高い。
「――病院では会えると想定して、受け答えの準備は完璧にしていのだけれど……」
最愛の人が照れたような笑みを浮かべている。
「それが狂ってしまったのですね?」
最愛の人は想定外のことにやや弱い。逆に祐樹は何事にも臨機応変に対処できると自負していて、お互い補っていけることが単純に嬉しい。恥ずかしそうに頷く最愛の人は白椿が薄紅を含みながら咲いているようだった。
「あとは、主人公の鬼になった妹を助けただけでなく、一回会っただけなのに『人を食った場合は主人公、共通の師匠、そして自分が切腹する』という覚悟と責任感を持っている点が似ていると思います。一回会った後に、師匠と手紙のやり取りをして信頼できると判断したかもしれませんが、それは作中に描写がないので分からないですね。しかし、そういう点も貴方に似ていると思ったのです」
最愛の人は咲きたての薄紅色の薔薇のような笑みを浮かべていた。その笑顔からは薔薇の芳香が漂ってくるのではないかと錯覚するほど美しかった。
「――困ったな……『鬼退治アニメ』の登場人物で祐樹を彷彿とさせる登場人物がいない」
描いたように綺麗な眉を寄せて立っている最愛の人は、ソースや油、そして彼の好きなりんご飴などの甘い香りが漂う空気や、お祭りの雑踏ではしゃぐ人たちの大きな声まで遮断するほどの、圧倒的な美しさだった。
「『呪いが廻る戦い』なら、現代最強の呪術師を間違いなく選んだのだが……。小児科のハロウィンの催しで、看護師が満場一致で選んだのも、私にはよく分かる気がした」
小児科の浜田教授に恩を売る絶好のチャンスだとコスプレを承知したが、かなりのストレスだった。

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