- 「気分は下剋上 叡知の宵宮」1
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」 2
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」 3
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」4
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」5
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」 6
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」7
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」8
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」9
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」10
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」11
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」12
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」13
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」14
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」15
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」16
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」17
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」18
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」19
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」20
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」21
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」22
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」23
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」24
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」25
- 「気分は下剋上 叡知な宵宮」26
「うん!美味しい!衣がサクサクとしている。それに、天ぷらと違って厚みがあるのだな……。具体的にどうやって作るのだろう?ソースも濃厚で甘味が強いな……」
切れ長の目に無垢な煌めきを宿し、綻んだ唇は静かな感想を紡ぐ。祐樹も、サクッと揚がった串カツをソースにざぶんとくぐらせると、ほんのり酸味とフルーティな甘みが立ち上がる。舌の上ではコクのあるスパイスと塩気が広がり、最後にふわっとソースの香りが鼻に抜けていく。
「完全な推測ですが、秘伝のソースのレシピがあるのではないでしょうか?呉先生がお気に入りの吉野家の牛丼だって自宅では再現不可能な味ですよね」
無邪気で無垢な煌めきを宿した眼差しは、ピンクダイヤモンドさえも霞むほどの美しい光を放っていた。
「こういう屋台か、通天閣の辺りで食べるのがきっと正解ですよ。自宅で作る必要はないと思います。こういうジャンクフードは雰囲気込みで味わうものだと私は思います」
ふんわりと笑みを浮かべて最愛の人を見た。それにしても、名前とかロケーションによってがらりと印象が変わるのは不思議だ。テレビで見た「十年後、ドゥオモのクーポラで会おう」という淡い約束は美しいのに、「十年後、通天閣で会おう」だったら、せいぜいが演歌の世界のような気がする。祐樹としては、最愛の人が花よりも瑞々しく笑う顔を見たいだけなので、美的さやロマンティックな要素までは求めていない。
「そうだな……。久米先生が制服をロッカーに預けてまで食べに行った気持ちが分かったような気がする」
最愛の人は料理上手だし、祐樹のために凝ったものを作ってくれる。しかし、仮に同じ味を再現出来たとしても、このざわめきや、油やソースの匂いが漂う中で食べるのとではきっと異なる。静謐な空気が漂うマンションのキッチンにはあまり似つかわしいとも思えない。
「唇の端にソースがついていますよ」
手を伸ばし、薄紅色の唇を指先でそっと拭った。最愛の人は照れたような笑みを浮かべ、瞳には嬉しそうな光が揺れていた。
「浴衣姿ではなく、そしてデートの時のラフな格好よりもさらに庶民的な服を着て通天閣の辺りのお店に行ってみませんか?久米先生にお勧めのお店を聞いておきます」
三串目を嬉しそうに食べていた最愛の人が、輝くような笑みを浮かべた。
「GUとかUNIQLOの服だろうか?あのセルフレジは衝撃だった。それに、何着買っても一万円くらいというのも良いな」
最愛の人は百貨店の店舗巡りが面倒だという理由で、病院内で着るスーツやネクタイと同じ店で普段着もついでに買っている。もともとは馬具職人として名を馳せた老舗ブランドが、フランス革命によって貴族階級が衰退したことを受けて、バッグ製造に転じ、今では世界規模で有名になった店舗が彼のお気に入りだ。祐樹も一緒に店舗に行ったことがあるが、セルフレジなど当然置いていない。そして何より値段が大幅に異なる。とはいえ、そこのスーツやネクタイは、優しげで端整な雰囲気をまとっている最愛の人によく似あっているし、教授職に相応しい装いなのも確かだ。しかし、今、祐樹の目の前で弾むような笑みを浮かべながら串カツを頬張る彼は、夜空のような色の浴衣に包まれた素肌がひときわ映えて、最高に美しかった。こうした笑みを見られるのは祐樹だけの特権だ――そう思うたびに、もっと見たくなる。何度でも、飽きることなく。
「そうですね。GUに行って出来るだけ目立たない服を買いましょう。――出来ればお揃いで色違いの服がいいですね」
具体的に想像したのか、ビールを呑んでいた最愛の人は、紅色の、柔らかな笑みを返してくれた。
「通天閣の辺りのお店はこの屋台よりももっと美味しいのだろうか?」
食べ終わって店から出たのちに、最愛の人がさも重大なことを聞くように祐樹を見上げている。
「祭りの屋台は一時的なお客さんで十分かもしれませんが、店舗を構えるとなれば、常連になってもらえるよう味にも工夫を凝らすのではないでしょうか」
祐樹も通天閣辺りのことはよく知らないが、常識的に考えたら正解のはずだ。
「そうか……それは楽しみだな」
弾ける笑みは、ホテルの部屋から見る予定の花火のように綺麗だった。
「あ!祐樹、金魚すくいと、カラフルなボールが浮かんでいる!金魚……いや、ボールすくいがしたい!」
浮かんでいるスーパーボールを見て納得した。二人で一緒に行った劇場版最新作を想起させる、おなじみのキャラクターがキラキラと輝いていた。
「そうですね。私は水の柱を狙います」
お金を払い、あえて紙の網と交換した。
「何故、水の柱なのだ?」
最愛の人も網を持って不思議そうに祐樹を見ている。

にほんブログ村

小説(BL)ランキング

コメント