- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
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「え?DVなんですか……。それって離婚の理由になりますよね……?」
久米先生は、風船を思わせるまるっとした身体から空気が抜けたような大きなため息を漏らしている。
「まだ結婚していないので離婚というよりも破局ですよね。久米先生の認識通りDVは離婚の理由になります。それを避けるためには岡田看護師とお母様を物理的にも遠ざけるに越したことはないと思うのですが、理想論でしょうか?今からこの調子では破局も仕方ないと覚悟を決めた方が良いかと。それに、人間は年を取ると性格改善は難しくなると言われていますよね」
祐樹の言葉に柏木先生が先輩風を吹かす感じで大きく頷いている。
「悪意は明らかなんだし、確信犯だろ?改心なんて絶対無理だから、絶縁しろとまでは言わないが、岡田看護師とお母様を絶対に接触させるな。窓口は久米先生だけにして、絶対に関わらせるなよ。母親が言ったこともな、久米先生にとっては些細なことかも知れないが、女同士だから分かる刺々しさが含まれてるぞ、絶対に。たとえばさ、香川……教授が患者さんからの差し入れで生きた伊勢エビを贈られたのは知っているか?」
そういえばそんなこともあったなと懐かしく思い出した。医局の皆が要らないと言ったので最愛の人が持ち帰って伊勢エビがふんだんに入ったグラタンとお刺身を食べた記憶がある。最愛の人が料理上手ということは医局では祐樹と長岡先生しか知らない。
「はい!ただ、そんな物を貰っても困る先生の方が多いですよね?黒木准教授の奥さんも絶対に要らないと言うだろうと准教授がおっしゃっていました。でもそれが何か?」
あまりの察しの悪さに頭を叩くと熟れたスイカの音がした。
「そういう高級食材であっても料理が面倒な物はたくさんあるのです。私はいくらお得になるといっても、ふるさと納税で豪華な食材が送られてくるのはパスします。岡田看護師の料理の腕前は良く知りませんが、仮に伊勢エビを料理するための大きめの鍋など持っていないでしょう。そういう手の込んだ贈り物は貰っても迷惑だと思う女性は多いと思います」
祐樹の指摘に長岡先生は嬉しそうな笑みを浮かべている。長岡先生は最愛の人の料理の腕も知っているし、伊勢エビを祐樹と二人で美味しく食べたことも話しているので最愛の人と祐樹を交互に見ている。
「あ!そうか……。いえ、そうですよね?お鍋のことまで思いつかなかったです。うっかり高価だから喜ぶだろうと思ったらダメということですよね……。全力で彼女をお守りします!!そうでないと一生、二次元の彼女と過ごすハメになりそうですし!」
久米先生の表情が一気に明るくなった。
「分かってくださって安心しましたわ。教授、柏木先生、そして田中先生もご協力ありがとうございます。これからも田中先生や柏木先生の言うことをよく聞いて彼女と仲良く交際してゴールインしてくださいね。あ!そうそう、お友達から聞いたのですが、花嫁衣裳選びも未来の夫の母と行くのはお勧めできません。結局花嫁の趣味ではなく、義母の意見で押し切られてしまう例もあるそうですのよ。とにかくお母様を関わらせないというか『俺たち二人の問題だから』で押し通すのが後々の生活で生きてきますわ。今、久米先生のお母様の意見でドレスなどを選んで内心は嫌々着た場合、その後の夫婦喧嘩で蒸し返されるのもよくあることだそうです」
長岡先生の澄んだ声が個室に親身に響いている。
「久米先生、これを。岡田看護師が待っているのですよね?」
最愛の人が白い百合の花束を久米先生に渡している。
「本当にありがとうございます!!振られないように頑張ります!!では、お先に失礼します」
深々と頭を下げた後にカバがタップダンスでも踊っているかのような足取りで、弾むように部屋を出て行った。
「そろそろ救急救命室に行かないとガチでヤバいんじゃないか?杉田師長が激怒しながら待っている可能性は高いぞ?」
柏木先生が祐樹に囁いた。
「私から連絡しておきます。容態が急変した患者さんのせいで医局員の手が離せなかったと」
最愛の人がそう伝えてくれれば、杉田師長の怒りも半分程度は減らせるだろう。
「宜しくお願いします。教授、長岡先生お疲れ様でした」
最愛の人に視線を絡ませると、小さな、しかし極上の笑みの花を咲かせてくれた。

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