「手術の日が決まるまで父は入院ですよね。家で倒れていないかとか、会社で具合が悪くなるとかの心配はしなくてもいいのはとても助かります。病院だといざというとき教授や田中先生がいらっしゃるので安心です!」
夏輝は強いて笑みを作っているのが分かる。
「ええ、ナースコールを押すと看護師が駆けつけてくるので安心ですよ。看護師が手に負えないと分かると即座に主治医の私か、どうしても手が離せない場合は医師が急行しますので大船に乗ったつもりでいてください」
祐樹が励ますように置いた夏輝の肩の震えが止まった。
「そうですよね。この病院に運ばれたのは偶然ですけど、チョーラッキーです。田中先生のお宝画像もゲット出来ましたし。ウチの専門学校のメイク科にいる友達?知人?うーん、顔見たら挨拶する仲なんだから知人かな?そいつに見せてもいいですか?こんな再現度の高い『呪いが廻る戦い』の現代最強の呪術師を見たらきっと驚くんで!!」
夏輝は目をキラキラさせている。お父様の容態が心配でそればかり考えているよりも友達と話したほうがいいに決まっている。
「それはいいですが、お友達ががっかりするのではないでしょうか」
「再現度が高い」とか夏輝が言って、期待させたら友達は失望するような気がする。
「そんなに再現度が高いのですか?」
呉先生も興味津々といった感じで祐樹のコスプレを見ている。夏輝はスマホをタップして本家本元のサイトを呉先生に見せている。
「ああ、このアニメでしたか。家でアニメを見る習慣がないもので、うっかりしていましたが、大好きな吉野家とコラボをしていて、店で見た覚えがあります。……似ているような気がしますが、田中先生はこんなに足が長くないと思います……」
……確か現代最強の呪術師は身長190センチだと記憶している。そんな人並外れた恵まれた体つきと比べられたら祐樹の立つ瀬がない。祐樹は日本人としては高身長の部類だが、それでも180センチにやや足りないのが現実だ。
「……それになぜ若いのに白髪なのですか?最近のアニメはピンク色と緑色の髪の毛など奇抜な髪色が多いですよね。YouTubeでも金色と黒を半分ずつとかいう髪の毛の人もいますよね。アニメならどんな髪色でも塗れば良いので手間はさほどかからないと思いますが、金色と黒の髪なんてものすごく手間もお金もかかるのではないでしょうか?」
呉先生の疑問はもっともだ。呉先生は本当に不思議がっているのか夏輝という美容師専門学校生がいるのでこの際疑問に思っていることを聞いたのかまでは分からない。
「黒髪の日本人の場合、まず色を落とすのが一般的です。そうじゃないと綺麗な金髪に染まらないんです」
夏輝が記憶をたぐるように言った。多分夏輝もそんな高度な(?)技術は頭の中に入っていても実際にしたことがないに違いない。YouTubeでは奇抜な髪色をしている人は多数存在するが、街中でそんな髪の毛をしている人は少ないので需要は少ないに違いない。
「そういえば、黒い髪に金色を染めても黒が勝ちますね。でも髪の毛を漂白するとなると物凄い時間がかかるような気がします」
呉先生の発言に最愛の人も細く長い首を縦に振っている。
「美容師の技術によるんですが、七時間程度は必要ですね」
な、七時間……!!そんなに長い間美容院に閉じ込められるのかと単純に驚いた。最愛の人も切れ長の目を見開いていたし、呉先生はスミレ色の吐息を零している。祐樹は髪の毛が伸びたらさっさと切るだけで三十分しかかかっていない。
「それに、金髪でも他の色でもいいですけど、一か月で一センチは伸びるのでいわゆるプリン状態になります。つまり……」
夏輝が何だか考えているような感じだった。
「つまり、金髪の根元から黒い毛が生えてきて、頭頂部を中心に黒くなるということですか?プリンのキャラメルみたいな状態になると……」
最愛の人が助け舟を出している。
「そうです!!」
YouTubeで凝った髪型をしている人は、色々と苦心をしているのだなと思ってしまう。
「ちなみに、プリン状態になった場合は、そこだけ染めるのですか?」
素朴な疑問を祐樹は聞いてみた。
「神スキルを持った美容師でも難しいんじゃないですか。根元をブリーチして全体を染め直します」
呉先生は見てはならない、いや聞くのではなかったというような表情を浮かべている。
「それって、一か月に最低一回美容室に行って髪の毛を染めてもらったり切ってもらったりするのですよね。一回につき数万円は必要なのですよね?普通の白髪染めでも一万円くらいします……。それから考えると一か月に数万円以上はかかるんですよね……」
世の中には髪ごときでそんなお金を使っている人がいるというのが信じられないと言わんばかりだった。呉先生は給料が薔薇屋敷の維持費や固定資産税で消えるらしい。
「自宅で染める人もいるらしいですが、やっぱり仕上がりに色むらが出来るので、美容院一択だと思います」
何だかお父様のことを考えていた夏輝とは異なって生き生きと説明している。つかの間の現実逃避といったところだろう。
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