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最愛の人の薄紅色の薔薇の風情と、夏輝の小さな白いリスのような二人のかみ合わなさが面白くて、祐樹は呉先生と顔を見合わせて微笑みを交わしあってしまった。もし、この場面を森技官に見られたら確実に祐樹は柔道か剣道で怪我をさせられそうだ。まあ、呉先生を放っておいて、霞が関か永田町に行っている森技官が悪いと思うことにしよう。
「雪が降るというのは、夏輝さんが言った通り、とても珍しいことのたとえですね」
呉先生が笑いをかみ殺しながら冷静な口調で告げると、最愛の人の頬は朝日を浴びた薄紅色の薔薇の花びらのようで、とても綺麗だった。
「社会人になって働くというのは物凄く大変なんですね。でも、頑張っているから恋人が出来るのかもしれないですよね。だって、『グレイス』で会ってホテルまで一緒に行っても、結局LINEブロックされたり、次に行ったら知らんぷりとか、そういうの何回もあってマジ凹むことばっかで……。でも田中先生たちみたいにちゃんとした恋もあるんだって知ったら、僕もそのうちとか考えちゃいます」
呉先生は一瞬だけ焦ったスミレのような表情になった。祐樹が知る限り呉先生は初めての人が森技官で、それから喧嘩するほど仲が良いという関係を続けている。祐樹は「グレイス」で会う同好の士が、どれほど奔放か知っているし、最愛の人もそういう体験は日本ではしていないが、祐樹が過少申告した過去話をしていたので知識として持っている。
その点、呉先生はそういう免疫が一切ないので、そういう反応になるのも仕方ないだろう。一瞬しか違和感を抱いた表情を浮かべなかったのは、統合失調症の患者さんを精神科時代に接し慣れていて、多分とんでもない妄想話を聞いていた経験が活きているのかもしれない。最愛の人は、祐樹の目の前で珍しくスマホで文字を手早く入力している。黒木准教授辺りに思いついたことでもあるのかもしれない。
「そんな感じなのですね。だから同居人がホテルの部屋で押し倒されるのですね」
呉先生は異世界か宇宙の話でもするような表情だった。甘い香水の香りをご自慢のアルマーニとシャツにまで染み込ませて森技官が帰宅し、呉先生が発作的に家出に及んでネカフェに最愛の人と二人で迎えに行った日のことだろう。
「え?彼氏さんが押し倒されたんですか!?てっきり先生はネコかと思って……あ!いえ今の言葉は忘れてください!!」
夏輝が真っ赤になって手と首を思いっきり振っている。どう見ても呉先生はネコだろう。その特殊用語というか俗語を呉先生が知らない可能性は高いと思っていたら、案の定華奢な首を傾げている。
「祐樹、ネコとは?」
最愛の人が不思議そうに聞いた。夏輝はますます真っ赤になって穴があったら入りたいと切実に思っているリスのようだった。
「ネコとは、つまり抱かれる側を指します。ちなみに反対語はタチです。ゲイバーでは一般的な言葉ですが、それ以外の場所ではまず馴染みのない単語です」
祐樹が事務的かつ端的に解説した。
「ああ、田中先生の言葉を聞いてやっと分かりました。動物のネコじゃないことは分かりましたが、それ以上はさっぱりで……。夏輝さんがお察しの通り私は抱かれる側です。同居人は思いっきりタチだと思います。だから、出張から帰った夜に甘い香水の香りを漂わせていたので、てっきり浮気をしたのだと思ったんです。で、自分の家なのに家出をしてネカフェに泊まったんです。朝になって田中先生と香川教授に迎えに来てもらいました。その節は大変ご迷惑をお掛けしました。昔は快活クラブというネカフェには無料の朝食がついていたのですが、今はないんですよね。それを知らなかったのです」
呉先生は最愛の人と祐樹に深々とお辞儀をしてくれた。
「いえ、インターネットカフェというところに初めて入ることが出来たので楽しかったです。機会があったら、祐樹と漫画を読みに一緒に行きたいと思いました。漫画があれだけ揃っているのを初めて見ました。気になる漫画は電子書籍で買っているのですが、紙の本で読むのはまた異なる印象を抱くかと思います」
最愛の人が淡い笑みを浮かべている。
「あ!それならペアシートはやめておいたほうがいいですよ。京都駅前の快活なら、店員さんが巡回めっちゃ来ますから。変な疑いかけられますし……」
最愛の人は個室にあった注意書きを思い出したのか、頬の薄紅色が濃くなった。
「夏輝さん。余計な心配はしなくて大丈夫ですから。教授は単純に漫画を読みに行きたいだけですよ」
苦笑しながら会話に割って入った。
「え!?漫画を読むんですか?なんか、難しい哲学書?そんな本しか読まないと思ってました」
夏輝は思いきり会話が脱線していることに気付いたのか、何とか話題を健全な方向にもっていこうと必死になっているのが微笑ましかった。
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