- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 5
毎日更新は無理ですが、時間のある時に不定期更新します。
教授がナツキのことをどう考え、祐樹も知らないうちにどう行動したのか――
気になる読者様に読んでいただければ嬉しいです。
「具体的にはどういった感じに見直すのですか?」
その必要性は自分的に不必要な気はしたが、何もかも信頼し任せている担当者の意見は聞いておくべきだろう。
「現在、現物とアートが高騰中でして。そういった物もお買いになったらいかがかと考えるのですが?」
あくまでも丁寧な口調だった。
「現物で高騰中というのは、ロレックスやエルメスのバーキンなどですよね?」
エルメスは自分も上顧客のリストに載っているのか、一度バーキンをお勧めされたことがある。転売するとお金になることは知っていたので、薔薇屋敷の維持費や固定資産税に悩まされている呉先生に定価で売って、彼がリサイクルショップに持っていけばいいと考えたこともあるが、祐樹に止められた。「そういう、あからさまな援助を友達の間でしたら、友情にひびが入りかねないです」と。そういえばそうだと、梅干しや干し柿、そして沢庵を作るための小さな土地を借りて月ぎめで支払っている。
それはそうと、百貨店で見たロレックスの店舗前で見た行列を思い出した。
「ああいうのは本気で欲しがっている人にこそ渡るべきものだと思っています。つい最近もエルメスのバーキンが15億円で落札されましたが、落札した企業も『文化遺産として所有・保存し、社会に広く公開することを目的として購入した』と報じられていますよね」
本当に美味しそうにアイスコーヒーを飲んでいた担当者はごくごく当たり前のように頷いている。
「あのバッグは、名前のもとになった女優のジェーン・バーキンが持っていたという、世界で一点しかないとても貴重な物です。落札価格には驚きましたが、実際のところ、実用品ではなくてもはや芸術品なのでしょうね」
確かにそうだろう。長岡先生から聞いたところによれば、エルメスの代表者が飛行機に乗り合わせ、たまたま大荷物を持っていた女優が座席上の棚に入れるときに中身をぶちまけてしまったらしい。その隣に座っていたエルメスの社長がその場でスケッチを描き、彼女の要望に沿ったバッグを作ったと聞いている。そのエルメスの社長と女優の出会いがなければ、今も女性を虜にしているバッグは出来なかったと思うと何だか由緒というか因縁を感じた。
「ああいうものは是非とも本当に欲しいと思う人に使って欲しいと切実に思います。まあ、プラチナや金を保有している私が言うことではありませんが。あれだって物といえば物ですから」
自己矛盾のような気がして肩を竦めてしまった。
「いえ、ゴールドやプラチナは、職人さんの魂が宿っていません。それにゴールドのインゴットは即座に替えがありますが、時計やバッグなどはそういうものではないです」
そういう考え方もあるのだなと感じた。やはり専門家の意見は聞いておいて良かったと思った。
「ダイヤモンドは下落していますよね?かつては流通性の高い、1ctで4Cの高いダイヤモンドは資産価値も高かったようですが、今では質のいい人工ダイヤもあることから、さほどでもないと読んだ覚えがあります」
担当者は重々しく頷いた。
「香川教授のおっしゃる通りです。2022年をピークに今年はおよそ26%下落しています。投資対象としてはお勧めできませんね」
祐樹のお母さまが、自分へと託してくれたダイヤモンドは別格中の別格で、価格がどんな下落しようが大切な大切な宝物だ。だから手放すつもりは毛頭ない。お母さまと祐樹の愛情に値段などはつけられない。しかし、資産運用はそういう情が入る余地はない。
「そうですか?ウチの病院長などは、患者さんからそっともらう『お志』が溜まったら1ctのダイヤモンドを購入して病院長執務室のどこかに隠してあるらしいです。それも26%の下落ですか……。蓄財はきっちりとしている人なのでもしかしたら売り抜けているかもしれませんね。それはそうと、アートは私にはまったく分からないので、興味はないです」
コーヒーを一口飲むと、秘書の腕前も上がったのかわりと美味しかった。
「かしこまりました。アートや現物はポートフォリオに加えないという方針で参りたいと思います。さて、S&Kカンパニー株式会社の件ですが、これが『再現』したキャッシュフロー計算書です」
執務室デスクに置かれたファイルはどう見ても実際にみずほ銀行からコピーしたと思しきものだったが、「再現」という言葉を信じるしかない。
「ありがとうございます。上場もしていない企業としてはかなり業績がいいのではないでしょうか?キャッシュフローも188億円ですか……」
これならナツキさんがアメリカに行って修業しハリウッド女優の専属美容師になるという希望は金銭面だけが前提だと楽々と叶えられる。「グレイス」でナツキさんは「スーツを着て銀行に行って支店長にちやほやされる父さんを見てたら、専門学校でちまちま学ぶのが嫌になる」みたいなことを言っていたが、これだけのキャッシュフローがあれば、三大メガバンクの一つでもあるみずほ銀行も支店長が飛び出してくるVIPのような気がする。実際にそういう目にあったことがないのであくまでイメージだが。
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