- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」2
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」5
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」9
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」11
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」12
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」13
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」15
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 2
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 16
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 3
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 4
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」18
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」20
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 5
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 6
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」21
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」22
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 7
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」23
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 8
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 9
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」25
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点10
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」26
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点11
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」27
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点12
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」28
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点13
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」29
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点14
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」30
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点15
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」31
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点16
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」32
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点17
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」33
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点18
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」34
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点19
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」35
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」36
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点20
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点21
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」38
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」39
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点22
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点23
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」40
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」41
それぞれが何を思っていたのか、併せて読んでいただければ幸いです。
そういえば、呉先生が夏輝さんと話したいと言っていた。呉先生はどこにいても人の目がある自分などとは異なって病院の内部ではあるものの、人が少ない旧館に彼一人の城を持っている。不定愁訴外来は看護師一人と呉先生しかいないブランチだ。その看護師さんは定年間近で、ランチタイムはきちんと取るし、定時で必ず帰る。そして不定愁訴外来は予約制なのであらかじめ患者さんのいない時間が分かる。
祐樹が呉先生を可憐な野のスミレと評していたが、仕事場では温和で気が長い模範的な精神科医だ。何しろ患者さんの不平不満を延々と聞いている。恋人の森技官に対しては怒りの沸点が低いが、きっとそれも森技官に対して気を許しているからだろう。不定愁訴外来は旧京都帝国大学付属病院設立時に本館として建てられた由緒ある建物だが、バリアフリーなど今の病院に必須の設備が整っていない。ついでに言うとエレベーターも設置されていない。だから必然的に第一線からは退いていて、予約した患者さんしか訪れない。
そして、呉先生も精神科の真殿教授と大喧嘩をし、精神科の医局では存在を忘れられかけている。ただ、真殿教授のパターナリズムやパワハラ気質で教授職が危ぶまれていて、呉「教授」待望論が存在する。そして今は清川厚労大臣の失言問題で霞が関と永田町を行ったり来たりしているらしい森技官も呉「教授」誕生のための地ならしをしていると聞いている。
祐樹も精神科の医局内で呉先生の密かな味方の梶原先生と会って話をしたと言っていた。そして梶原先生は信頼に値する精神科医だが医局にいることで疲れている様子だとも。清川厚労大臣の失言問題にけりがつくと森技官は呉「教授」誕生に尽力するだろう。だから、この機会を逃すと呉先生と夏輝さんの対面の機会はないだろう。
呉先生は祐樹や自分と異なって同性愛者だという自覚もなかったらしい。単に恋愛に奥手だと自己分析していて、自分ですらたまたま入院したオーナーにもらった無料券でゲイバー「グレイス」に行ったというのに、そういう経験がないという、夏輝さんからしても珍しい存在だろう。「グレイス」で見た夏輝さんは呉先生がどう判断するか大いに疑問だが、杉田弁護士や祐樹そして自分と話してみた結果、空気が読めて対人スキルが高い人だと分かった。「グレイス」では空気を読むことに熱心だったせいで、いかにもゲイらしい話し方や服装、態度を演じていただけで、先ほどの有瀬誠一郎氏に息子として心配していた姿こそが本当の夏輝さんだろう。そういう人間は呉先生もきっと気に入るはずだ。
「祐樹とはLINEで繋がっていますよね?私達が行くことが出来るかどうかお約束はできかねますが、不定愁訴外来の呉先生の診察室で待つというのはいかがでしょう?」
祐樹が驚いたように男らしく整った眉を上げている。祐樹には、自分が夏輝さんのために動いていることは話していない。それでなくとも「病院一忙しい医師」という異名を持つ祐樹にこれ以上の時間を割いて貰いたくなかったし、いつも祐樹に頼ってばかりなのは忸怩たる気持ちだったのも事実だ。もちろん祐樹の愛情を損なうことだと判断した場合は真っ先に相談するだろうし、祐樹の指示に従って改善策を練るつもりでいる。しかし、夏輝さんに対して祐樹は人生の先輩として多少の好意を寄せているだけで、それ以上でもそれ以下でもない。だから比較的暇な自分が動くだけで充分だと思っていた。
祐樹が何かに気を取られたようにポケットを探っている。自分の記憶違いでなければ、スマートフォンを入れていた場所だ。綺麗な弧を描く眉を寄せた祐樹がスマートフォンに耳を当てている。
『ちょっと!いつまで香川外科で油を売ってるの?こっちは集団食中毒で大変なんだから早く戻ってよね!』
祐樹が耳に当てているのに、杉田師長の甲高い声が自分の耳にもはっきりと聞こえてきた。もしかしてノロウイルスだろうか?それならば感染拡大が心配なので、防御策を講じなければならない。
「分かりました。即座に戻ります」
祐樹がスマートフォンを手早くタップしている。
「そろそろタイムアップのようです。お父さまの有瀬さんは我が香川外科の誇る優秀な看護師が見ていますのでご心配なく」
祐樹は夏輝さんに落ち着いた声で話している。心臓外科の医局員で救急救命室にいる医師は祐樹と柏木先生だけだ。祐樹が自分にウインクして早足で遠ざかっていくのを少し寂しい気持ちで見送った。
「――夏樹さん、申し訳ありませんが、食中毒の原因がノロウイルスという最悪の想定をしなければなりません。祐樹ともう一人医局から救急救命室に派遣している医師がいます。こちらの病棟には免疫力が落ちている患者さんも多いので絶対にウイルスを持ち込ませないようにしないとならないのです。その対応策を具体的に練る必要があります」
夏輝さんは感心したような眼差しで自分を見上げている。
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