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それぞれが何を思っていたのか、併せて読んでいただければ幸いです。
嘘をつくくらいなら沈黙を選ぶ自分だが、これは祐樹と自分のことではなく夏輝さんの将来に関わる問題だと思うとまた話は異なってくる。
「一度だけお会いしたことがあります。阪急の四条河原町駅で、心臓発作を起こした中年男性に駅備え付けのAEDを使って救命術を施していた青年が夏輝さんだったのです。そしてたまたま通りかかった我々が後を引き継ぎました。スマートフォンで救急車を呼んだり駅員さんを呼びに行ったりは一般人でもできますが、迷わずAEDを使うというのは勇気のいる行動です。そのお礼の意味を込めて名刺をお渡ししました」
笑みを忘れないように努力して最後まで言い切った。手のひらにはびっしりと汗をかいていたが、有瀬氏は気づいていないようだった。隣に立っている祐樹も「よく出来ました」と言いたげな笑みを浮かべてくれている。満点には程遠いものの、及第点には達したらしくホッとした。
「――なるほど、夏輝がそんな感心な振る舞いをしたのですか?それは親としても誇らしいです」
有瀬氏は満足そうな笑みを浮かべていた。先ほどの古くからの知人に久しぶりに会い本当にその人本人かと疑うような眼差しではなくなっている。とはいえ、自分は有瀬氏と直接の面識はないので、きっと彼の勘違いだろう。ただ、有瀬氏の視線には何というか、特別な何かがあるような気がする。どこで感じた視線なのだろう……?
病室のドアがスライドされたので振り返ると三好看護師と広瀬看護師がキビキビとした動作で入ってきた。それ自体に何の問題もないが、長岡先生いわく「広瀬看護師は病院一のスタイルの良さで、顔もいいですわよね。時々銀座のお店に岩松と行きますがそのお店にいて――もちろんドレスを着てですけれども、ナンバー1ホステスだと紹介されても驚きませんわ」とのことだった。三好看護師が一緒とはいえ、有瀬氏が身体を舐めるように見たり不躾な言葉をぶつけたりしないように気をつけなければならない。何しろ、医師よりも看護師のほうが人手不足で、患者さんからのセクシャルハラスメントなどで辞めたいと思われたら大変だ。
とはいえ、広瀬さんはそういう視線にも、そして他科の医師や技師などの告白を断ることも慣れていると祐樹は言っていた。それに「不倫騒動」のときに発覚した三好看護師の「不倫はゴキブリよりも大嫌い」という信条で広瀬看護師をそういう告白には手ひどいしっぺ返しが待っているという件もウワサで聞いた。
自分は祐樹にしか「そういう」気分にはならないが、コンビニエンスストアにたまに行くと胸が大きくスタイルのいい女性が水着姿や手で胸と股間を隠した表紙の雑誌の表紙を見たことはある。男性が買って……そして自慰に使うということも祐樹に教えてもらった覚えがある。だから、有瀬氏が広瀬看護師に色目でも使ったら、即座に止めようと決意しつつ様子を窺った。
しかし、有瀬氏は三好・広瀬看護師にそれぞれ何だか機械的な感じで頭を下げただけだった。
「教授、点滴の様子を見に参ったのですが」
三好看護師が何故か驚いたような表情で自分を見上げていた。
「念のため、私が最終確認をしておきますね。薬剤を見せてください」
三好・広瀬看護師の手でダブルチェックは終わっているはずだが、責任感の強い祐樹が爽やかな声で告げている。
「この睡眠導入剤は、ご子息の夏輝さんと少しお話してから私が注射します。今から入れるとご子息に要らぬ心配をさせてしまいますから」
祐樹がきっぱりと言っている。経口摂取と異なって血液に入れると効き目が即座に現れる。夏輝さんが今、病院のどこにいるのかまでは分からないが、ベッドに横たわっているとはいえ、普通に話している有瀬氏を見るほうが安心するだろう。睡眠導入剤で朦朧となっているのか、それとも容態が悪いせいなのかまでは夏輝さんは分からないだろう。祐樹の気遣いはやはりさすがだなと感心した。
「父さん、大丈夫?」
慌ただしいノックの音のあと、スライド式のドアが焦ったように開けられ夏輝さんが現れた。「グレイス」で会ったときは服装も髪型も凝った感じだったが、今は髪の毛は洗ったまま放置していたのかぼさぼさで、白いTシャツにスラックス姿といった格好をしている。ただ、その姿の夏輝さんのほうが魅力的に見える。
夏輝さんは自分に向かって深々と礼をしてくれた。その後、祐樹に向かって同じようにお辞儀をしたのち、三好看護師と広瀬看護師にも同様の動作をしている。三好看護師と広瀬看護師はたまたまそこにいたから礼儀としてお辞儀をしただけといった感じだった。夏輝さんも同性愛者なので、久米先生が「病院一ですよね」とも言っていたナイスバディの広瀬看護師に一切の興味を示していない。親子だからだろうか?有瀬誠一郎氏も同じような感じだったのが心の隅に魚の小骨のように引っかかった。
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