- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点10
「どこかで見覚えのある青年」が登場します。
本編とあわせてお楽しみください。
「それが、ナツキさん、つまりその若者のあだ名だか本名なのかは分からないですが、とにかくそのように呼んでいます」
呉先生は好奇心に満ちた子猫、いやスミレの花のように身を乗り出している。
「本名かあだ名か分からずに通称で呼んで成立するお店があるのですね。ウチの病院でも病院長を『あの腹黒タヌキ』とか、大変ムカつく真殿教授を梶原先生と二人で『瞬間湯沸かし器』とか『火薬庫』と呼んでいます。でも隠語のようなもので知っている人にしか伝わらないですよね。常連客全てが知っているのですよね、そのナツキさんは」
そういえば、祐樹と二人でまったりと過ごす予定だった休日に家出した呉先生、そして恋人を迎えにきた森技官まで加わって「巻き込まれて」しまった日に、呉「教授」を誕生させるべく森技官が陰謀の糸を張り巡らせようとしていた。ただ、その後清川厚労大臣が失言騒ぎを起こしたので、森技官は呉先生を連れて東京へとヘリコプターで行った。そののち森技官は、霞が関や永田町に常駐しているらしく、当分のあいだ京都に戻ってこないようだ。急ぐ話ではないにせよ、呉「教授」誕生を後押しする計画の進捗は、やはり気になる。
「そうですね。そちらの医局の『瞬間湯沸かし器』さんは、そろそろ別の場所でご活躍される予定などあるのでしょうか?森技官が東京大学から医師をリストアップされると伺いました。それであれば、東京にいらしたほうが何かと便利かと思います」
呉先生は口に含んだフィナンシェに砂でも混じっているような表情に変わった。
「教授、一気に現実に引き戻さないでください……」
自分がナツキさんを羨ましく思うのはこういうときだ。きっと彼ならこんな無粋な質問はしなかっただろう。
「すみません。ついつい……。やはり動きがあるのですか?」
軽く頭を下げると、呉先生はからりと笑っている。
「いえ、別に構わないです。なんというか、責任の重さが今とは異なるわけですから、あまり深くは考えないようにしています。同居人ともなかなか話す機会がなくて。ただ、『閨閥結婚だと、こじれたときにはかなり厄介だ』と言っていました。それに、なんと、清水研修医の叔母が真殿教授の奥様だったのです。そして、清水家では緊急家族会議が招集されたそうです。清水研修医はちょうど救急救命室勤務だったので、その会議には出席していなかったようですが、真殿教授の奥さん、つまり清水院長の姉か妹さんは憔悴した様子だったらしいです。これは清水研修医から聞いた話ですが」
閨閥結婚……、確かに清水家は京都一の私立病院を経営していて、しかも清水院長は斎藤病院長の同級生であり戦友だと聞いている。もしかして、斎藤病院長が仲人になって真殿教授と清水家の当時の令嬢と結婚させたという可能性はある。真殿教授がなにをしたのかまでは分からないが、奥さんの実家の人間を巻き込んで大騒動が起こっているのかもしれない。斎藤病院長が、真殿教授と清水院長のどちらかを選べと言われたなら、親友で戦友として病院長選挙を戦った清水院長を選ぶだろう。いや、うがった見方かもしれないし、情報が断片的なので全く異なった事態が進んでいる可能性だってある。
「そうなのですね。もしかすると、森技官は斎藤病院長や真殿教授といった病院関係者が強く絡むので、私達を無関係な立場に置いておきたいのかもしれないです。よろしければ、また続報を聞かせてください。それはともかく、私もゲイバーは『グレイス』しか知らないので全体的なことは分からないのです。ただ、あだ名が定着していて、本名を名乗らない人も多いと祐樹が言っていました。ちなみに祐樹は職業が露見すると無料健康相談の相手をしないといけないとかで、会社員と自称していたようです」
呉先生は朝露を含んだスミレに日が当たったような笑顔を浮かべていた。ごくごく普通のことを言っただけなのに、なぜだろう?
「しかし、教授とご一緒に行ったときには本職を言っているのですよね?会社員を名乗っているのは、身元を特定されずに気軽に遊べると田中先生は考えていたのではないですか?」
そういえば、祐樹を初めて「グレイス」で見かけたときには、綺麗な人を口説いていた。後になって実際は口説かれていたと祐樹は言っていたし、祐樹が魅力的なのも確かなので過去の恋愛については仕方がないと割り切っている。そういう遊びの恋愛に会社員と自称し、病院に押しかけてこられるようなリスクを回避していたのかもしれないなと今更ながら思った。
「そうかもしれないです……。祐樹はとても魅力的なので、当然『グレイス』でもモテたと思います」
呉先生は何だか必死で笑いをこらえているように見えた。また何か変なことを言ってしまったのだろうか?
「それはそうとナツキさんとLINEを交換したのは祐樹だけで、私は名刺を一方的に渡しただけなのです。ナツキさんからメールを送信しない限り連絡は取れないですね。『グレイス』に行く頻度も減らしたと祐樹が言っていました。だから連絡の取りようがなくて……。ただ、ハリウッド女優の専属美容師になるという夢を叶えて欲しいとは思っています。ただ、競争が激しい世界でしょうし、その点が悩みどころですね。金銭的な問題は、親御さんが資産家なので何とかなりそうですが」
呉先生も細く綺麗な指を頬に当てて何やら考え込んでいた。
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