- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」18
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毎日更新は無理ですが、時間のある時に不定期更新します。
教授がナツキのことをどう考え、祐樹も知らないうちにどう行動したのか――
気になる読者様に読んでいただければ嬉しいです。
「ホテルについていったら、部屋にも男がいて複数人で性行為を……」など隠したい過去だろうに、初対面の祐樹や自分の前で語っていた。そんなナツキさんが、嘘をつくとは思えなかった。
『お待たせいたしました。『S&K株式会社』です。社長は有瀬誠一郎氏、副社長は有瀬香織氏です。メインバンクはみずほ銀行ですね。さらに詳しい情報は必要でしょうか?』
Sは誠一郎の頭文字、Kは香織から取ったのだろう。夫婦仲はいいのだろうと微笑んでしまった。
「お願いします。業績――キャッシュフロー計算書があればいいのですが、それは無理でしょうね……」
メインバンクのみずほ銀行ならば把握しているだろうが、プライベートバンクにそれを求めるのは難しいだろう。
『ここだけの話ですが……』
担当者は声をひそめている。もしかしたらキャッシュフロー状況も分かるかもしれない。ただ、会社に億単位以上のキャッシュがあっても、ナツキさんの渡米には反対する場合は何の役にも立たないが。
『当行にはみずほ銀に太い人脈を持つ人間が数人在籍しております。よろしければその者たちにヒアリングをいたしましょうか?』
まさに渡りに船であり、このプライベートバンクを選んで正解だったとしみじみ感じた。
「ありがとうございます。特にキャッシュフロー計算書、原本のコピーだとコンプライアンス的にまずいですよね。ざっくりとした数字で構いませんので、調べていただけませんか?」
潤沢な資金があって、両親が反対しないといいと思いながら返答を待った。
『かしこまりました。報告は明日でよろしいでしょうか?18時に執務室に伺いますが?』
他の大学病院のことは知らないが、ここでは昼食時や定時を過ぎた場合、職務外のことをしてもいいという不文律がある。内科の内田教授は「家に帰れば家族に邪魔されて集中できない」と言って論文執筆の書斎代わりに使っている。
「はい、宜しくお願いいたします」
電話を切って帰り支度をし、新館を出た。
「お疲れ様です。香川教授、今、お帰りですか?」
控え目な笑みを浮かべて話しかけてきたのは、確か救急救命室の斎藤看護師だ。
「そうです。……髪、少し切りましたか?そちらのほうがお似合いですし、看護師としてもふさわしいですね」
斎藤看護師は驚いたように目を丸くしていたが、すぐに照れた笑みを浮かべた。
「分かります?三センチくらいしか切ってないんですけど……覚えていてくださったなんて、光栄です。では、杉田師長に怒られるので」
深々とお辞儀をした彼女に、「ご苦労さま」と声をかけ、病院の門を出た。さて、祐樹は何を作ったら喜んで食べてくれるだろうか?補充すべき物はなかっただろうか?明日の朝食は和食にするか洋食にするか考えながら、このままデパートの食品売り場に寄るか帰宅するかを楽しく思い巡らせた。
この前、行きつけの百貨店で遠藤先生と偶然会って、「教授は明日の手術のことをお考えですか?確かに難易度の高いオペですからね」と言われた。手術のことは病院内で想定済みで、百貨店にいるときは、何を作れば祐樹が喜んでくれるかしか考えていなかった。「はい、そんなところです」とは返したが、そんなに真剣な表情を浮かべていたのだろうか?
そんなことを思いながら歩いていると、森技官に貸した無難な色のネクタイがまだ返ってきていないことに気付いた。「あの騒動」以来、清川大臣の失言問題の事態の収拾にあたっていて、京都に帰ったらお返ししますというLINEは来ていた。いつ帰ってくるのか分からない森技官の多忙さを思うと、さっさと補充したほうがいいような気がした。スマートフォンをポケットから取り出し、祐樹や他の医師からの通知が来ていないことを確認してから、エルメスに電話した。
先にネクタイを買ってから食料品売り場を回ったほうが効率的だなと思い、担当者の手が空く三十分後までは時間を潰そう。このフロアはいわゆるハイブランドと呼ばれる店舗の階だ。特に興味はないものの、散策することにした。前方に行列が出来ているなと見上げるとロレックスだった。自分には並んでまで欲しいものは存在しないが、エルメスだって、毎日通ってくる女性がいるのは長岡先生から聞いて知っていた。実際に店舗にいた際にも「バーキンかケリーの在庫はありますか?」とスタッフに声をかけていた。「在庫を確認してまいります」とスタッフがバックヤードに入った後に「大変申し訳ございません。あいにく在庫を切らしておりまして」と頭を下げる光景を何度も見てきた。
バーキンやケリーなどの人気商品の在庫の有無くらい、スタッフは把握しているはずだ。なのに、なぜ毎回わざわざ確認しに行くのか、自分には理解できなかった。
「今日はデイトナ入荷してるかな?」
「無理だろ、いつも在庫ないって言われているし」
「どうしても欲しいのにな」
成功した自営業風の男性たち二人の声が聞こえてきた。
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