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- 「気分は下剋上 巻き込まれ騒動」最終話
8050問題について祐樹はそこまで深く考えてはいなかったのは、専門が異なるせいだろうか?
「なるほど、出来るなら森技官について行って、精神科医として意見を具申したら如何ですか?藤宮さんがあれほど取り乱した声をしていたということは清川大臣も国益のために動く政治家なのでしょう?森技官と藤宮技官の話を漏れ聞く限り、マスコミにはまだ漏れていないようですよね?これから事態がどう動くかはまったく分からないですが、善後策を講じるためにも精神科医がいるほうが良いような気もします」
それに清川大臣の相談に乗った専門医として広く認知されれば、呉先生が教授になるためのアドバンテージも十分に得られる。最悪の事態を想定すれば、内閣総辞職、さらに次の選挙で落選という展開になれば、呉先生も巻き添えを食う恐れがある。しかし、森技官があれほどまでに庇う姿勢を見せていることを考えれば、その可能性は極めて低い。
何しろ森技官は乱世に生まれていれば一国一城どころか、君主になっていても不思議ではないほど、情報網と洞察力、そして行動力に長けた人物だ。まだ清川大臣の失言がマスコミに漏れていないなら、総理の弱みを含め、使えるものはすべて動員して沈静化に努めるだろう。呉先生は優しげな顔に決意の表情を浮かべて頷いた。
最愛の人の肩を当たり前のように借りてキッチンに入って来た森技官はグレーのネクタイを締めていた。しかも、ノットの几帳面さから推察するに最愛の人の手をわずらわせたのだろう。最愛の人は怪我人だからというごくごくシンプルな理由で手助けしたのだろうが、祐樹のモヤモヤ感はさらに募ってしまった。
「ヘリってオレも乗れる?お前と、お前が信じる清川大臣の手助けをしたい。精神科医の端くれだから役に立たせてほしい」
最愛の人は、恋人同士の話に加わらず、玄関へと向かっている。しかも手にはドライヤーを持っていた。
「何をするのですか?」
彼ら二人の力関係は呉先生が勝っているし、祐樹が考えついたことは森技官なら即座に答えをはじき出すはずだ。それよりも最愛の人のほうが気になった。
「森技官の足の爪が割れているだろう?スーツ姿にこだわっている森技官なら革靴を絶対に履くから、少しでも爪先を柔らかくしておこうと思って」
マスコミに漏れた場合、記者会見にも出席する森技官が松葉づえというのは却ってバッシングを浴びかねない。しかも森技官は「スーツは男の戦闘服」というキャッチコピーの体現者だ。
「なるほど。私は、救急箱からガーゼを持ってきて緩衝材にします」
この際、私怨めいた嫉妬は忘れよう。そもそも最愛の人は森技官だからではなく、ただ、怪我人の生活の質を少しでも良くしようと考えているだけなのだろう。
「スーツは藤宮に用意させます」
キッチン前を通りかかると森技官の声が聞こえてきた。きっと呉先生の意向が通ったのだろう。最愛の人のドライヤーの作業の邪魔をしないように細心の注意を払ってガーゼを詰めていると、森技官が呉先生の肩を借りて廊下を歩いてきた。
「教授、田中先生有難うございます。この厚意は一生忘れません」
森技官は一目で二人が何をしているかを悟ったらしく深々と頭を下げた。そんな殊勝な態度を取られたことはないので面食らったが、乗りかかった船だ。
「大学病院ですよね?車でお送りします」
時計を見るとあと十分しかない。マンションから病院までは徒歩圏内だが、何しろ森技官は怪我人だ。タクシーを呼ぶより車を出した方が早い。
「祐樹、私も同行しても良いか?」
最愛の人が遠慮がちな表情を浮かべている。
「もちろんです。ただ、愛車は四人乗りですが……後部座席に座るには足への負担がかかりますよね?助手席は断腸の思いで森技官に……」
今まで祐樹の母が来ようとも助手席は最愛の人専用だと決めていたのに、なんでよりによって森技官に譲らなければならないのだという気持ちが顔に出ていたのだろう。最愛の人は白薔薇のような笑みを浮かべている。
「怪我人を優先するのは当たり前だろう?救急車両だとでも思って割り切ってくれたら嬉しい」
満開の白薔薇のような笑みの最愛の人に一瞬、見惚れた。
「お前、あとでちゃんと田中先生にお礼をしろよ」
呉先生が森技官をたしなめている。
「はい。この恩返しは必ずいたします」
深々と頭を下げた森技官は最愛の人と祐樹が改良した靴を履いて男らしい眉をひそめている。
「やはり痛いですか?とりあえずスリッパをお貸ししますが……」
スリッパを履いた森技官に祐樹は肩を貸して駐車場まで移動した。車内に乗り込んで病院の門が見えてくると、森技官が決然とした、いや清水の舞台から飛び降りる直前の人のような、決死の表情を祐樹と、そして後部座席に座った最愛の人に交互に向けている。
「お二人にお願いがあるのです。ヘリポートに行く前に、救急救命室に寄って、リドカインを打っていただけないでしょうか?」
局部麻酔薬を使おうという気持ちは分かったが、森技官が救急救命室に行く?

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