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- 「気分は下剋上 巻き込まれ騒動」最終話
今の祐樹に出来ることは、精神科の医局の情報を清水研修医から聞き出して、森技官が帰ってきた時に補足情報を引き出す程度だ。
『ああ、あの二人ですか。患者さんではなくて、老害の顔色をうかがっているだけです。老害が『カラスは白い』と言えば、『そうです!!絶対に白いですよね』と即座に返答するような人たちです。老害と共にどこかに行ってほしいです。ああいう人間がいるから、老害がますます図に乗るのだと思います』
呉先生がお風呂から上がり、こちらに近づいてくる音がした。状況を理解して静かに聞いている最愛の人とは違い何を言い出すか分からない。しかも、「あいつ、あいつ!お二人の前で……絶対に許さない」など羞恥を怒りに変換させている可能性も大きい。
「そろそろこちらの休憩時間も終わりますのでいったん切りますね」
間がいいのだろう。スマホ越しに救急車のサイレンの音も聞こえてきた。清水研修医も救急救命室に即座に戻る必要があるだろう。
『はい。では私は備考欄をさらに充実させるように頑張ります。このスマホでは、都合が悪いこともあるため、連絡用に隠しスマホを今日中にでも購入します。あの老害はスマホチェックまでするんですよ』
最愛の人は涼しげな目を大きく見開いている。祐樹もこの病院でスマホまでチェックをする教授など聞いたことがない。
「その新しいスマホの番号は、念のためにメモにして久米先生にでも渡しておいてください。私とは救急救命室繋がりなので問題はないでしょうが、今後呉先生や『協力者』などと連絡を取るようになったら真殿教授に申し開きが出来ませんので。では、有意義な情報有難うございました」
救急車のサイレンがますます近づいてくるのがスマホ越しに聞こえる。清水先生も救急救命室に戻らないと杉田師長の怒号が待っているに違いない。
『いえ、なんか……待ちに待った日が来たようでとても嬉しいです!!では、またご連絡をお待ちしています。有難うございました』
電話の向こうで深々とお辞儀しているような気配を感じた後に、通話が切れた。
「お風呂まで貸してくださって本当にありがとうございます」
最愛の人が貸したと思しきバスローブ姿だったが頬が赤いのは先ほどの公開処刑ならぬ公開勃起の後の排泄までを他人の家のお風呂場で行ったからだろう。
「同居人はまだ帰っていないのですか?」
最愛の人が怜悧な感じで頷くと、呉先生は尖ったスミレのような、怒気をはらんだ風情で「ちっ!使えないヤツ」と吐き捨てている。
「それより、清水研修医から電話がありまして……。どうやら真殿教授は医局員のスマホチェックまでしているようですよ。彼は、全面協力にあたって、こっそりもう一台スマホを購入するらしいです」
呉先生は、氷のように澄んだスミレへと表情を変えた。
「恐怖政治ですか。アイツのやりそうなことではありますが、オレのいた時よりもさらに風通しが悪くなって、サイアクですね……」
氷の入ったミネラルウオーターのグラスをトレーに載せた最愛の人がリビングに静謐な空気をまとって入ってきた。
「呉先生、洗濯機は回しておきましたので、帰宅される頃には下着は乾いていると思います」
淡々と告げられた言葉に、頬を真っ赤にしている。ぐっしょり濡れた下着は、お風呂場でこっそり洗った後、どこかに放置していたのだろう。それを目ざとい人が「善意」で洗濯機に入れたのも、当事者としたらものすごく恥ずかしいだろうなと祐樹は思った。
「逆ではないでしょうか?私のように医局員を全面的に信頼していたらスマートフォンのチェックなど考えつかないと思います。そういうプライベートまで探らないといけないというのは、疑心暗鬼に陥っているからとも考えられないでしょうか?」
最愛の人の声が、普段よりも無機的なのは、きっと呉先生の羞恥を察して、何もなかったこととして処理したいからだろう。呉先生には羞恥ではなく、打倒・真殿教授へと気持ちを切り替えてほしいのは祐樹も同様だった。
「そんな閉塞的な医局なんてまっぴらです。そう思っているのは清水研修医や梶原先生だけではないと思いますよ。風通しのいい精神科の医局にしなければ、良心的な医師ほど逃げ出すと思いませんか?ああ、ちなみに高見・田島先生は真殿教授が『カラスは白い』と言えば『白いです』と即座に返すらしいです。清水研修医が吐き捨てるように言っていました」
祐樹が呉先生に状況を説明していると、最愛の人はスマホを取り出していた。
「もしもし、香川です。どうされましたか?え?暗証番号、ですか?」
怪訝な表情を浮かべた端整な顔は、どこか突然の曇り空に驚いた薔薇のような風情だった。暗証番号?それはいったいなんのことなのだろう?思いつくのは銀行のキャッシュカードだが、きっとそうではないのだろうな程度は祐樹にも分かった。

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コメント
こんばんは。
旧ブログ(?)でのこうやまみか様の移転に関する思いも読み、読者の方への心配りに感激しました。 早速移転先で更新されていますお話も読ませて頂きました。 試しにスマホ・PC端末の両方で読んでみましたら、どちらの端末も、特にリンクがページに付くようになったこともあって前よりも次の話へ移動しやすく、読みやすくなっていたように感じました。 内容の方の感想に移らせて頂きますと、具体的な真殿教授の放逐方法に関しては、森技官により思いがけず、後からのお楽しみとなってしまいましたが、田中先生たちと同じ情報量なことから読者のもどかしさも半減されており、大人しく時が来るのを待ちたいなと感じました。 その前の情報を集める手段の中では、信頼できる人を探す、SNSを確認するなどとても分かりやすい描写で、調査の手順もスムーズで自然だなという印象を受けました。
その中で、真殿教授が先生方の携帯端末まで確認しているという所は、そこまでやるとは思っていなかったこともあり、びっくりしました。 森技官のことですからしっかりと対処してくれると思いますので、未来の呉先生への「危機」ももちろん大切だと思いますが、この現状を病院の先生方のためにも解決して欲しい、と素直に思える展開で良かったです。
今回は森技官と呉先生のお互いを思う心が如実に分かるエピソードが多く、特に森技官はそれなりに奔放な描写を今まで読んできたものですから、呉先生に不埒な影が予期できるだけで平静を失いそうになっている描写は特に愉快な気持ちにさせてもらいました。 どうしてもまじめな話の中では、スーツがとても似合って雰囲気があるな、とか、言葉の端々から見られる官僚らしさといった切れ者的な印象を深めすぎてしまいそうななかで、端々で愉快なため、この巻き込まれ騒動を読む前よりも格段に森技官への親しみを持てていると感じてきています。 呉先生の方も、森技官への容赦ない扱いが、逆に二人の絆の深さを物語っているようで愛情を感じられています。 また、前回読んだ範囲での密室の二人といい、今回の撮影での二人といい、人の家や親友とはいえ他人の前でやっていいこと!?と、シャワーまで借りる羽目になった呉先生が可哀そうな気持ちもあるのですが、千変万化するスミレが大層可憐だったのもあり、それはそれとしていいかな、とも思える匙加減で、今は無事に牛丼を胃袋に入れて欲しいと思うばかりです。 今回もますます面白くなる展開で、楽しく読ませて頂きました。