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- 「気分は下剋上 巻き込まれ騒動」最終話
『それで、いよいよ例の先生が決起じゃない、決心を固められたということですね』
清水研修医の声は弾んでいるが、固有名詞を使わないという細やかな配慮もきっと清水病院長の帝王教育の賜物だろう。何しろ清水病院長は、京都一の私立病院の院長先生で、「腹黒タヌキ」とあだ名されている斎藤病院長とは戦友・親友だ。きっと「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」という精神が受け継がれているのだろう。
そして、清水研修医は呉先生をずっと「待って」いた。きっと「ときは今、雨が下しる 五月かな」と詠んだ明智光秀の心情なのかもしれない。とはいえ、豊臣秀吉がまさかの休戦、そして京都に引き返してくると予想できなかった光秀とは異なるように感じるのは、祐樹が現代の視点で見ているからだろう。
呉教授待望論者だが、黙ってじっと待っているだろう、気が熟するまでは。その時が来たと判断したからこその清水研修医の晴れやかな声なのだろう。
「そうなのです。そこでお願いしたい点がいくつかありまして」
玄関の扉が開いて最愛の人が入ってきた気配がした。
『もちろんです。私にできることは何でもいたします!!』
廊下に出て、電話中ですと伝えるためにスマホの画面を見せた。清水研修医という表示を見、最愛の人は即座に察して静謐なクリーム色の薔薇のように微笑んだ。何しろ二人が一緒に暮らしていることは極秘なので。
「実は……権謀術数についてだけは、私が知る限り最も優れた人と相談している最中なのです。今は食事に行っていますが……」
恋人の下着をタクシーに乗って買いに行っているなんて絶対に言えない。しかも、その恋人は清水研修医が担ごうとしている呉先生なのだから。なぜそんな事態になったかを祐樹だって言語化できない。最愛の人も楽しそうな笑みの花を咲かせている。祐樹の言い訳が可笑しかったのだろう。
『それは是非紹介してほしい人ですね。病院内の人ですか?』
なまじ政治力を持っている清水研修医だから、森技官のことは気になるのだろう。これが外科のこと――特に心臓、以外興味のない久米先生なら華麗にスルーするのは確実だ。
「それは本人に聞いてからですね……」
「清水研修医は使える」と言っていた森技官なので会うと言う可能性は高いだろうが確実ではない。肝心な時に、よりにもよって恋人の下着を買いにいった森技官ときたらもう、やはり花瓶で殴るわけにはいかないが、せめて中の水を頭からかけたい気分になった。尤も今は花も飾られていないし、水も入っていない。
『了解しました。あの備考欄を書いたのは、心臓外科の教授ですよね?あの病院一の能筆家として有名な筆跡は間違いないと思いましたが』
……そこまで露見するとは思わなかったが、確かに最愛の人の流麗な字は一度見たら忘れられないだろう。
「実は、呉教授誕生を目指した作戦を立案しているのです。尤も今は休憩中でして、各々が買い出しに行ったり、外の空気を吸いに行ったりですが」
清水研修医は羨望めいたため息を吐いている。
『そうなのですね。もしかして内田教授も参加なさっているのですか?あの医局クーデターは見事だったと父が申しておりました』
やはり、医局クーデターと聞くとウチの病院では内田教授を連想するのだろう。
「内田教授のクーデター手法は、先生が言っていた通り、ウチの病院では『お手本』みたいに語られています。真殿教授もさすがにそのへんは把握していて、もう何かしらの手は打っていると思います。それで今、他大学の医局事情に詳しい方に協力をお願いし、別の突破口を探しているところなのです」
何だか画面の向こうで清水研修医が垂涎の的といった表情を浮かべているのが目に見えるようだった。
『その外部の方が権謀術数の達人なのですか……。それは是非ともお会いしたいですが、私が望むのはあの老害の排除、そして、医局の皆が症例について自由に議論できるような新しい風を吹き込んでくださる新教授です。もし、その方が会わないと決めたなら、その人の意見に従います』
この即断即決ぶりはやはり外科医に相応しいと祐樹は思った。
『――それに、か……じゃなかった心臓外科の教授も動いてくださるのですよね。とても心強いです。私は当面の間、備考欄の補足をすればいいのでしょうか?』
清水研修医は大局を見る目を持っていると以前から思っていたが、彼が出来ることを即座に判断して実行に移すのも頼もしい。
「ちなみに、高見先生と田島先生は、医局ではどのような感じなのでしょう?」

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