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- 「気分は下剋上 巻き込まれ騒動」最終話
先ほどの「性行為はどうなのでしょう?」という森技官のたわけた質問に対しての怒りではないような感じだった。そして、祐樹の傍らで助手を務めてくれた最愛の人の端整で怜悧な顔は、困惑と戸惑い、そしてどこか焦りの色が滲んでいるような気がした。たぶん、森技官の言葉ではなくてスマホが原因らしい。
祐樹は内閣総辞職レベルの国家機密かと思っていたが、呉先生の真っ赤なスミレのような怒気には、どこか羞恥心めいたものも滲んでいた。
「お前!!オレだってさ、お前の画像を撮ってたのは悪いと思う!だが、この画像は悪意があるとしか思えない!!」
今にも森技官のスマホを床にたたきつけそうな勢いだった。……今までに二台のスマホが宙を飛んでいるというこの部屋には前代未聞・空前絶後の騒ぎだ。もしかして、二度あることは三度あるということわざ通りに物事は進展するのだろうか。
森技官は慌てたような表情で立ち上がりかけ、よりにもよって祐樹が処置し、最愛の人が冷感湿布を貼った足を軸にして立ち上がろうとした。
「っ……ぐ……っ」
どうして、もう片方の足を軸にして、こちらをかばわないのか不思議だった。森技官は柔道の黒帯だかを持っていると聞いていた。稽古のときに怪我をしなかったのだろうか?足の甲に全体重をかけたせいで、さっきまで静かだった傷が、一斉に悲鳴を上げたのだろう。
――ふつうは逆の足を使わないか?という祐樹の根本的な疑問は尽きない。苦悶の声を上げる森技官に祐樹は慌てて支えに入ろうとしたが、同じ動きをした最愛の人と手を取り合うようなかたちになってしまった。その瞬間に森技官は震える足で立ち上がった。
「見せるつもりは……なかったのです……」
真っ青な顔は足の痛さも加わっているだろうが、掠れた声や救いを求めるような真剣な眼差しはきっと呉先生への贖罪の気持ちゆえに違いない。何だか、足を引きずりながらも悟りの境地に達した巡礼者が路傍に現れた弘法大師の幻に向かって正座しかけた瞬間、みたいな顔だった。
いくら祐樹が森技官に含むところが多々あるにせよ、今の彼は患者さんだ。半ば呆然とした表情で立っている最愛の人に囁いた。
「具体的にはどういった画像なのですか?」
状況を正しく把握しないと仲裁するつもりが却って火に油を注ぎかねない。祐樹が懸念していた内閣総辞職レベルの機密のほうが、まだ良かったのかもしれない。それだったら、呉先生も激怒などはしないだろうから。
「呉先生の寝顔の写真だ。……鎖骨までしか写っていないが……少なくとも上半身は何も纏っていないと思う。たぶん、恋人としての……そのう、行為の後だろう……」
祐樹との愛の交歓のときには淫らな言葉をためらいもなく紡ぐ最愛の人だけれども、それ以外の人がいると羞恥を滲ませる。そのギャップがいいのだが。
「しかし、ハメ……、その、鎖骨程度ですよね。全身だったら、ああいうふうに怒るのも無理はないと思いますが……?」
ハメ撮りと思わず口走りそうになって慌てて軌道修正した。祐樹には愛の交歓を撮るような趣味はない。そして最愛の人は愛の行為を全て祐樹から教わろうとしている健気な人だ。ネットで検索すればいくらでも出てくるような行為についても、一切調べようとしない可愛い人だ。
「そうだな……。それに先ほど森技官の寝顔を呉先生が保存していただろう?同じことではないのか」
最愛の人も細く長い首を優雅に傾げている。
「絶対に悪意があるだろっ!これはさ。オレはオレなりにカッコいいお前の顔のアングルを調整して、きちんと撮ったのは愛情なのに!」
呉先生がスマホを持った手をぶんぶんと振り回していると、手が滑ったのかすっぽ抜けて宙を舞う。やはり、二度あることは三度あるということわざを作った先人の先見の明には妙に感心してしまう。「ぴたっ」という音と共に、その軌道は止まった。最愛の人の手の中に、まるで最初からそこに収まる運命だったかのように。
祐樹も隣からその画面を覗き込む。
「見ないでくださいっ!」
焦りまくった呉先生の声は、まるでスミレの断末魔のような悲鳴だった。しかし――見てしまったものは、もう仕方ない。映っていたのは、まるで天使のように微笑む呉先生の寝顔だった。最愛の人が言っていた通り、鎖骨までが柔らかい光に包まれ、その寝姿はまさに無邪気で可憐だった。それなのに、どうしてここまで取り乱すのか、祐樹は少し不思議だった。
「いい写真ではないですか?呉先生の優しい表情がいかんなく発揮されていて……」
祐樹の感想に森技官が、地獄の血の池で苦しんでいる最中に、目の前に一本の蜘蛛の糸が下りてきたような表情で、頷いている。何がいったい呉先生の逆鱗にふれたのだろう?

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