「気分は下剋上 イルミネーション 2025」14

「気分は下剋上」イルミネーション 2025
📖 初めて読む方へ: 登場人物相関図はこちら
This entry is part 15 of 15 in the series 気分は下剋上 イルミネーション2025

「また後ほど。聡、愉しみにしています」
 呉先生が体育座りから立ち上がったのが視界の端に映ったので、祐樹は、愛らしく尖った突起を強く捻った後、指をさり気なく離した。
「祐樹、私こそ待ち望んでいる……」
 薄紅色の唇からは熱い吐息が零れていて、まるでこの寒気も溶かすかのようだった。ただ、青色に映える指はセーターの裾を直し、コートのボタンを留めている。呉先生はツバメのような軽い足取りで歩いているのに対し、森技官は黄色いダンゴムシから牛へと変化を遂げたような鈍重さだった。
「先ほどは大人げないことをしてしまって申し訳ございません」
 頭を下げる森技官はある意味進歩したな、と祐樹は思ったが、最愛の人は怪訝そうな表情だった。森技官のやらかしを見ていないのだから、最愛の人の当然の反応だろう。
「お前、そこは『大変申し訳ございません』だろ!」
 呉先生が森技官の頭を軽く叩いている間に、「スルーで大丈夫です」と最愛の人に囁いた。祐樹のアドバイスを受け入れた最愛の人は軽く頷き、「了解した」とアイサインを送ってきた。その眼差しは青色のイルミネーションよりも綺麗だった。
「大変申し訳ございません。以後慎みますのでどうかご寛恕いただければと思います」
 森技官が祐樹と最愛の人に深々と頭を下げると、呉先生が「よしよし」と言うかのように頭を撫でている。この恋人たちは、森技官が主導権を握っているように見えるが、実際は呉先生の尻に敷かれているのがよく分かる構図だった。
「いえいえ、そこまで謝っていただくほどのことではないです。仕事も大変そうですし、ストレスも私などに比べると膨大だとお察しします」
 祐樹は少し冷えたホットワインを飲みながら、笑い飛ばそうとした。
「それがそうなのです。あの県庁では政治家なのかYouTuberなのかさっぱり分からない人間や、会話が出来ない知事などが跳梁ちょうりょう跋扈ばっこしているのです。少なくとも、私が接する国会議員は会話が成立するので、特にストレスは感じないのです。しかし、質問にも『個人の見解として重く受け止めます』などと返されるのは初めてです。その結果、民主主義の劣化を感じて絶望的な気分になっているのです」
 森技官は食い気味に言葉を重ねてきたのが、意外だった。祐樹は、患者さんには恵まれている。何しろ「香川教授にぜひ執刀していただきたい」という希望のほうが強いので、患者さんとの上下関係はこちらが上になっている。ちなみに最近は「田中先生に執刀してほしい」と希望する患者さんも増えてきて嬉しい限りだ。ただ、元同級生などから話を聞く機会もある。
「ガンにはこの薬が効くとネットで見た」
 そう一点張りの患者さんも増加しているという。
「いや、その薬はステージⅠなら有効ですが、貴方の場合は対応できないです」
 その言葉を信じない患者さんの対応には苦慮しているらしい。
「ぶっちゃけ、『その薬と心中しろ』と言いたくなるが、それは駄目だろ」
 元同級生の医師がそう言っていた。会話が通じないストレスは弁論が武器の森技官にはきついのだろうなと祐樹も思った。興味がないので覚えていないが、森技官は柔道か剣道のどちらかが、かなり強いらしい。だからといって言葉が通じないから暴力に訴えるわけにはいかないのも当たり前だ。ただ、当たり前や常識は、属するコミュニティによっても異なる。祐樹が助っ人に入っている救急救命室では「あ!ステっちゃった」杉田師長は軽く言うが、人の死はもっと重いものだというのが世間の常識だろうと思う。
 森技官も全く異なるコミュニティにいきなり入って疲れているのかもしれない。
 会話が通じないレベルからすれば、ちらっと見た記者会見だけの祐樹の個人的判断だけれども、海外というより、宇宙人と話しているような感覚になる気がする。
「何を聞いても『適正・適切・適法に対応しております』という回答は相変わらずなのですか?」
 最愛の人も気の毒そうな光を切れ長の目に宿している。
「そうなのです。全く答えになっていないのです。しかも泡沫政党のお騒がせ元国会議員とは異なって大学からほぼ私と同じコースをたどっている点がさらにイライラ度を上げるのです」
 森技官は東大から厚労省に入ったし、問題の知事は東大から総務省だったと記憶している。祐樹も、一般人が医学的に無知なことをしてもさほど心は動かないが、YouTubeなどで見る自称医師がとんでもないことを言っていたら腹立たしいのと同じだろう。
「そうです。そもそも、適正・適切・適法に対応していたら、こんな騒ぎになっていません。二馬力選挙という奇天烈な選挙戦略から始まって、どれだけの法案を作ったか。YouTubeでネギを持って呑気に笑っているのを見るとパソコンの画面を粉砕したくなります」
 森技官の愚痴というのは珍しい。呉先生は黙って背中を撫でている。
「なるほど。しかし、選挙で選ばれた以上、不信任決議か市民のリコールがなければ次の選挙で落選させるしか方法はないのではないですか?言葉の通じない知事を選んでしまったということを、県民に浅く広く根気強く広めることが大切だと思います」
 怜悧な声が青いイルミネーションを背景に凛と響いた。

―――――

通常は夜中の12時ごろに2話更新していますが「にほんブログ村」では新着に載らないというエラーが多発しています。
それでも更新していますので、遊びに来ていただけたら嬉しいです。

 こうやまみか拝

もしお時間許せば、下のバナーを二つ、ぽちっとしていただけたら嬉しいです。
そのひと手間が、思っている以上に大きな力になります。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

小説(BL)ランキング
小説(BL)ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

PR ここから下は広告です

私が実際に使ってよかったものをピックアップしています

Series Navigation<< 「気分は下剋上 イルミネーション 2025」13

コメント

タイトルとURLをコピーしました