「気分は下剋上 姫はじめ 2026」前

短編
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This entry is part 12 of 18 in the series 下剋上SP

「この年越しそば、出汁が香ってとても美味しい」
 お正月に訪れたい旅館ランキングに毎年選ばれているだけあって料理もとても美味しかった。最愛の人は花のような笑みを浮かべて年越しそばを食べている。除夜の鐘が、その時間にいっそうの荘厳さを添えているのも素敵だ。最愛の人は祐樹がマンションにいないときはテレビをつけるらしいが、二人きりだとテレビの騒がしさには縁がない。
「この近くの山は、初日の出を見るのに絶景のスポットらしいですよ。二人で見に参りましょう。来年も幸せに暮らせるようにお祈りしましょうね」
 祈らなくても幸せに暮らせそうだが二人の誓いとして山や日を拝むのも一興だろう。
「そうだな。折角和服も持ってきたので着ないともったいない。この海老の天ぷら、中がぷりぷりしていてとても美味しい」
 最愛の人の声は、まるで春風に乗っているかのようだった。
「この旅館から初日の出を見に行くバスが出ているそうですよ。その前に卓球をして、その後でこの旅館には四つもある浴室を全制覇しませんか?」
 テレビの前で時間を潰すのは家でもできるので、ここでしか出来ないことをしたい。
「それはいいな。四つの温泉巡りも楽しみだ」
 春の陽射しに照らされた桜の花のような笑顔だった。
「祐樹。卓球も上手いのだな……」
 最愛の人が感心したように褒めてくれた。
「貴方も回を重ねるにつれて上手くなっていましたよね。もう少しで、私も負けるのではないかと思いました。それはそうと温泉の効果で肌がすべすべになりましたね。少し休憩をしましょう。あ、コーヒー牛乳とミックスジュースどちらかを飲みませんか?喉も乾いていると思います。私のお勧めはミックスジュースです。温泉や銭湯では定番ですよ」
 最愛の人は切れ長の目を開いて祐樹を見上げている。
「そうなのか?ではミックスジュースを飲むことにしよう」
 旅館備え付けの浴衣もよく似合うが、初日の出を見るために持ってきた和服のほうが重厚感もあるし、最愛の人にも良く似合う。しかし卓球や入浴で汗をかくので旅館備え付けのものを着ている。
「ん!甘くて美味しい」
 瓶に入ったミックスジュースをごくごく飲む彼の喉の動きが、とてもセクシーだった。
「日の出の時刻は降水確率ゼロバーセントですね。日ごろの行いが良いせいでしょうね」
 旅館の料理は日本酒ともよく合うので、お互いにお酌し合い、ちまちまと並べられたおかずを肴に飲んでいる。そういう時間も最愛の人と二人ならとても楽しい。
「そろそろ初日の出を見に行く時間だな。隣の部屋で着替えてくる」
 ん?と思った。今さら恥ずかしがる間柄ではないので、この部屋で着替えたらいいのにと思ったが、制止するほどのことではない。
「私もよそ行きの着物に着替えますね」
 最愛の人は頷いて隣の部屋に足取りも軽やかに入っていった。
「旅館のマイクロバスはもっと人がたくさんいると思っていましたが。貸し切りだとは思いませんでした」
 隣に座る最愛の人に囁きかけた。
「初日の出を見たいと思っていたゲストが、飲みすぎや食べすぎ、そして湯あたりなどでパスしたのかもしれないな……」
 最愛の人は祐樹の指を握って囁いてくれた。
「この階段を上ったら綺麗な初日の出が見れます。足元にはくれぐれもお気をつけください」
 運転手さんが教えてくれた。靴ではなくて草履なので確かに滑ると厄介だ。誰だって、正月早々に怪我はしたくない。
「行きましょうか?転倒しないように手を繋いで登りましょう」
 夜目にもほの紅い指が祐樹の手に絡んだ。
「この辺りが展望台みたいだな。山の稜線が赤らんでいる……」
 繋いだ手を離さずに最愛の人は感心したように呟いている。
「もうすぐ今年初めての日が昇るのですね」
 繋いだ手をさらに絡めた。
「わ!とても綺麗だ。新年初めての生まれたての日は特別に格別に思えるな」
 最愛の人の弾んだ声は陽の光よりも煌めいているかのようだった。その金の粉を撒いているような唇に祐樹の唇を重ねた。手と唇でお互いの存在を確かめていると先ほど飲んだ日本酒よりもトロリとした酔いを感じる。「祐樹、明けましておめでとう。今年もよろしくお願いする」
 最愛の人は律儀に頭を下げている。
「こちらこそ、今年とは言わず生きている限りよろしくお願いします」
 山の赤そして静謐さの中で、誓いのキスを交わした。初日の出とその周りの雲が赤くそまっていて、二人を祝福するかのようだった。
「名残は尽きませんがバスの運転手さんを待たしていましたよね。そろそろ旅館に帰りましょう」
 最愛の人は残念そうな雰囲気だったが瞳には期待に満ちた光を宿している。――期待?これからおせち料理やお雑煮を食べるのに、なぜそんな眼差しをするのか、よく分からない。
「昼食はお正月特別プランで十一時からだったな。目に初日の出が焼き付いているうちに、祐樹と姫はじめをしたい……。俗に言う昆布巻きでもいいな……これはお正月しか出来ないだろう」
 最愛の人の思いも寄らないお誘いに胸が高まる。
「姫はじめは二日目だと記憶しています。これはプレ姫はじめということで……。しかし、昆布巻きは」
 もしかしてと思って最愛の人の臀部を探った。

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