「気分は下剋上 ハロウィン 2025」2

「気分は下剋上 ハロウィン2025
📖 初めて読む方へ: 登場人物相関図はこちら
This entry is part 2 of 4 in the series 気分は下剋上ハロウィン2025

 最愛の人は内田教授にお酌をしてもらいながら静観の構えだった。内田教授のテンションと浜田教授の熱意に押されたのかいつもよりも飲むピッチが速いような気がする。
「なんでも、看護師の一人が、あのキャラに扮した姿のLINEスタンプを作って千円で配布したら、なんと!三百人が購入したらしいですよ」
 ……芸能人などの場合、容姿を映されたら何かの権利が発生したような気がする。祐樹は芸能人ではないが、分け前くらいくれたらいいのにと思ってしまった。浜田教授にお酌をされ過ぎて酔いが回っているが、その看護師は多分三十万円の売り上げを手にしたような気がする。その一割でも祐樹がもらえれば三万円の臨時収入になる。
「そうなのですか?それはどこで、いや誰に言えば買えますか?」
 祐樹の隣の最愛の人が身を乗り出して内田教授に聞いている。彼も祐樹と同様にアルコールには強く、怜悧で端整なその顔は相変わらず涼しげだった。教授が医局員のLINEスタンプを買うとなれば、後々問題になるかもしれない。ただ、内田教授も浜田教授もかなり酔いが回っているようで覚えていないことを祈りたい。
「教授もご存知の、手術室の柏木看護師が発売元と聞いています。何でもご主人が『脱サラ・呪術師』役に扮した関係上、ちゃっかり抱き合わせ商法をしているとか。まあ、その収益の半分は小児科に入るので、浜田教授も許可なさったのでしたよね。この商売上手が!」
 内田教授は隣に座った浜田教授の肩をバンバンと叩いている。そういう状況なら祐樹に分け前が回ってこなくても諦めるしかないだろう。少子高齢化に伴い小児科も稼いでいるとは言いづらい科だ。しかし!祐樹にも一万円でいいので分けてくれても、バチは当たらないと思う。思うのだが、金銭に恬淡としている最愛の人の前では言いにくい。祐樹にだって最愛の人にいいところを見せたい。だから、沈黙を選ぼう。とても残念だが。
「――前回と同じでは新鮮味に欠けますよね。ですから、『現代最強の呪術師』の高校時代を今回のテーマにしようと思っています」
 浜田教授がとうとうと語っていた。「げ!高校生かよ……」というのが祐樹の内心だった。いくら祐樹が童顔だからといって高校生役はさすがにきついような気がする。最愛の人が何か言ってくれないかと思って横目で窺うと、彼はLINEを操作していて、しかも相手は柏木看護師だった。香川外科ではなく手術室所属の彼女に連絡を取る必要性は……、と考えると、答えは一つだ。きっとそのLINEスタンプを買うつもりなのだろう。彼が何を買おうと自由だけれども、祐樹へのLINEに使うのは止めてほしいと後で言っておこう。何が悲しくて自分のコスプレを最愛の人からの心洗われるようなLINEに添えて送られなきゃならんのだと内心で思っていた。
「高校時代、いいですね。それにルックスはそれほど変わっていないですし、田中先生でも大丈夫でしょう。ただ、そうなると人選が難しいですね」
 内田教授が呂律の怪しい声で言っている。スマホに注意を奪われている最愛の人からの援護射撃は諦めよう。
「高校時代の彼らですか?後輩もいましたよね。私よりもさらに童顔……」
 「簡単に該当者はいない」と言いかけたそのとき、天啓のようなひらめきがあった。
「不定愁訴外来の呉先生はどうでしょうか?」
 呉先生は知る人ぞ知るといった精神科医だが、大学病院では知らない人は全く知らない。精神科の主流からは外れ、不定愁訴外来のブランチ長という肩書だが、医師は一人看護師も一人という規模だ。とはいえ、海外の学会に縁者として呼ばれる実力派だ。ちなみにこの大学病院でそんな晴れ舞台に呼ばれる人材は救急救命の北教授に次いで二人しかいない。そして、最愛の人も祐樹も呉・次期教授を切望している。この飲み会の参加者は、小児科の浜田教授と内科の内田教授だ。二人とも親・香川派で、教授会のキーマンでもある。この機会に乗じて呉先生を二人に紹介すれば、一気に人脈が広がる。そうなれば呉「教授」への大きな一歩前進になると祐樹は考えた。ただ、呉先生はアニメも見ていない上、そういうことには消極的な性格だ。恋人の森技官が身体を張った――ある意味ギャグなのではないかと祐樹が思ったほど可笑しかった――説得のおかげで教授を目指すことをしぶしぶ了承したという経緯がある。
 そうだ!呉先生への正面突破よりも森技官からの搦め手がこの場合も効果的だと思った。もっとも、森技官との交渉というのもなかなか難しいのが現状だ。どうにか打開策をひねり出さなければ。森技官が興味を持つもの……、ああ!あれを使えばなんとかなりそうな気がする。となれば、準備が必要だなと祐樹もスマホを取り出してAmazonにアクセスした。
「後輩役も難しいですが――高校生編のラスボス的なキャラクターがいますよね」
 浜田教授の困り切った声に、うっかりタップし、しかも注文が完了してしまった――。

―――――

◇森技官たちに振り回される祐樹の話はこちら→ https://kouyamamika.livedoor.blog/archives/26910156.html
読んでくだされば嬉しいです!

もしお時間許せば、下のバナーを二つ、ぽちっとしていただけたら嬉しいです。
そのひと手間が、思っている以上に大きな力になります。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

小説(BL)ランキング
小説(BL)ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

PR ここから下は広告です

私が実際に使ってよかったものをピックアップしています

Series Navigation<< 「気分は下剋上 ハロウィン 2025」3「気分は下剋上 ハロウィン 2025」1 >>

コメント

タイトルとURLをコピーしました