「気分は下剋上 ハロウィン 2025」1

「気分は下剋上 ハロウィン2025
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This entry is part 3 of 4 in the series 気分は下剋上ハロウィン2025

「今夜の飲み会のテーマはやはり、『鬼退治アニメ・劇場版』の世界的大ヒットでしょうね」
 祐樹は、内科の内田教授と小児科の浜田教授と横を歩む最愛の人との飲み会を重視している。理由は単に話していて楽しいからというわけではなく、両教授の教授会の発言力の強さという点もあった。
「そうだな。ただ、浜田教授は何か祐樹に頼みたいことがあると言っていた……」
 ――浜田教授の頼みごと、しかも病院外でとなると、思い当たることは一つしかない。
「あれですか……小児科病棟のハロウィンのイベントにまた協力するということでしょうか?」
 最愛の人は紺色のスーツに包まれた少し細い肩を優雅に竦めていた。
「そこまでは聞いていないが、心疾患のお子さんの患者さんをウチの科で預かるという話ならば、病院内でするだろうな」
 祐樹の内心としては全く乗り気ではない。しかし、浜田教授のお父様が名のある教授だったらしく、教授陣も教えを受けたという過去は、ゆるがせにできないほどの重みを持っている。「あの浜田教授のご子息が、こんなに立派になって……」と目を潤ませる高齢の教授や准教授は、かなりの数にのぼるらしい。
 内田教授も、温和な内科医という表向きの顔以外に、「病院改革の闘士」という側面がある。その二人の機嫌を損ねるというのは悪手だろうと祐樹は思う。気さくな性格の浜田教授は看護師もヒヨコのように後をついていくという人格者なので、祐樹が断ったといってそれほど怒らないような気もする。だが、最愛の人が次期病院長を目指すという点からも絶対に味方につけておいたほうが良いのは確かだ。
 並んで歩いていた祐樹は、一歩前に出て最愛の人と向き合った。切れ長の目がとても綺麗だ。
「これだけは譲れない点が一つだけあります。何のコスプレかは知りませんが、目の周りに――化粧をしたり、つけ睫毛をつけたりする場合、貴方がしてください。いくら化粧に手慣れている看護師だったとしても断固としてお断りします」
 最愛の人は切れ長の目をさらに開き、呆気にとられた表情を浮かべて祐樹を見ている。
「そんなことでいいのか。外科医は目が命なのだから、ある意味当然だが……」
 あのハロウィンの悪夢が脳裏をよぎった。祐樹は身体のどの部分よりも目を酷使していると自己分析しているのに、裸眼で両目の視力は1.5をずっとキープしている。だから、いくら役作りのためとはいえ、ブルーのカラーコンタクトを入れさせられる恐怖は筆舌に尽くしがたかった。日常的にコンタクトを使っている人からすれば「なんだ、そんなことか」と言われるかもしれないが、視力を損なう・見えなくなるかもという恐怖は外科医生命の終わりを意味する。
「約束ですよ」
 祐樹の知る限り最も器用な最愛の人に任せておけば大丈夫だろう。二人の間には、約束をするときに「指切りげんまん」をするささやかな習慣があったが、浜田教授の指定した店の前では自粛した。玄関や店の様子を見る限り、料亭と高級居酒屋の真ん中あたりの雰囲気だった。これまでにも四人でこういう飲み会をしたが、少し高めの居酒屋といった感じの店が多かった。店選びからして浜田教授の意気込みが伝わってくる感じだ。
「浜田で予約が入っていると思うのですが」
 玄関を開けてくれた和服の女性に最愛の人が告げている。
「はい。承っております。こちらのお部屋でございます」
 彼女が障子を開けると、浜田教授と内田教授は既に座っていた。
「香川教授・田中先生、まずは駆けつけ三杯――と行きたいところですが、今の時代こういうのはアルハラになってしまいますかね?」
 臨時教授会で最愛の人が通したセクハラ禁止条項や精神科の真殿教授へのパワハラ問題解決案に大賛成してくれたのもこの二人だった。ハラスメント全体への意識向上を教授自らが率先している点は流石だと祐樹は思った。
「いえ、遅れてしまって申し訳ないです。別に二人とも下戸げこではないのでアルコールハラスメントにはならないと思います」
 最愛の人が真面目に返し、内田教授が笑い転げている。二人でかなり飲んだに違いない。
「田中先生、熟考に熟慮を重ね、またナースたちの熱い要望もありまして――」
 掘り炬燵ごたつふうの席に並んで座った祐樹と最愛の人に、浜田教授が身を乗り出していた。お銚子を持って最愛の人ではなく祐樹のお猪口に日本酒を注いでいる点からもやはり「祐樹への頼み事」を優先したいのだろう。普段ならまず最愛の人に注ぐのが大学病院の因習だ。「院内革命の闘士」と呼ばれる内田教授もその辺りの慣習まで改める気はないらしい。
「はい?」
 今度はいったい何役なのだろうと、内心うんざりしながら熱心に聞くふりをした。話題沸騰中の「鬼退治アニメ」……いや、あの主要キャラに祐樹の顔が相応しい人はいない。
「やはり、今年のハロウィンは『呪いが廻る戦い』にしたいのです。それで、また田中先生のご協力をお願いできればと」
 またあの役かと思った。最愛の人は内田教授にお酌をしてもらいながら静観の構えだった。
「そりゃあ、田中先生の『現代最強の呪術師』としてのの集客力に勝るものはありませんからね! なんでも――」
 内田教授が意味ありげに言葉を切った。

―――――

◇ハロウィン2022年は→ https://kouyamamika.livedoor.blog/archives/17124995.html
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