「それはお約束します。この魅力に富む聡の肢体には――もう、触れないほうがいいですよね……」
互いの口戯によってしなやかに反ったり祐樹の肌に擦り付けられたりした最愛の人の二つの胸の尖りに、思わず視線を奪われた。ルビーよりも紅くイチゴよりも瑞々しくて、思わず指で触れ、その硬さを確かめたくなるが、最愛の人はこの二つの突起を愛撫すると、極上の花園の中の敏感な一点と悦楽が密接に連動している。煽るだけ煽って蛇の生殺し状態にするよりもこれ以上指でも触れないほうがきっといい、そう判断し、ためらいがちに紅色の唇に祐樹の唇を重ねた。
「え?祐樹……それは……」
最愛の人の涙の膜を張った綺麗な目が見開かれた。彼との愛の交歓は数えきれないほどしてきたが、暗黙の了解があって、祐樹が彼の身体に挿った後には口戯をしない、口戯で欲情を発散させた時にはキスをしないという取り決めが出来上がっていた。それを祐樹が破ろうとしたのだから、彼が驚くのも当然だろう。しかし、最後の悦楽を極めず、祐樹のことを優先してくれた最愛の人の厚意に報いるにはこれしかないような気がした。
彼の薄紅色の顔にも真珠の飛沫が宝石のように、――いや勲章のようにまとわりついている。最愛の人の唇に唇を重ねると苦くて甘い独特の味がした。
「後始末は私がしますので、もうお休みください。それともシャワーを浴びますか?」
最愛の人の祐樹しか受け入れない場所は熾火のように官能の熱を宿しているに違いない。彼がこれ以上の行為を拒む以上は冷たいシャワーで鎮めるしかないだろう。
「いや、シャワーはいい。口ででも祐樹を感じたし、顔に熱い飛沫がかかったのも気持ちよかった。この余韻のまま眠りたいので」
祐樹が、手早くシャワーを浴びて後始末の準備をして寝室に戻ったときには、最愛の人は、すでに深い眠りに落ちていた。どこか満足そうに見えるのは祐樹の気のせいではないような気がした。
「祐樹、おはよう。朝ご飯が出来ている」
寝室のドアを開けた最愛の人の後ろから味噌汁とコーヒーのいい香りが漂っている。
「おはようございます」
半身をベッドから起こすと、最愛の人の白い顔が近づき、唇にミントの息がかかった。また、室内着に包まれたしなやかな身体からはシャンプーとボディソープの清潔な香りが祐樹の覚醒を促してくれた。
「祐樹、五時に医局にいられるか?」
最愛の人が、さつま芋の味噌汁を嚥下したのちに聞いてきた。
「大丈夫です。貴方もご存知の通り、手術はありません。患者さん巡りと事務仕事を片づけようと思っていました。何か用事でも?」
最愛の人は、一日二件の手術をこなし、しかも事務仕事も完璧だと黒木准教授が絶賛していた。それはひとえに彼の事務処理能力が卓越しているからだろう。その点祐樹はあいにく凡人なのでそれなりの時間を要する。とはいえ、早くかつ正確には心がけている。
「そうか。分かった。用事はまだ内緒だ」
最愛の人がくすぐったそうに微笑んでいた。
「田中先生、こちらの内藤さんのバイタルがこれなのですが、点滴は続行しますか?」
三好看護師がカルテに記入している祐樹につかつかと近づいている。
「緒方さんなのですが、当面は体力回復で様子見という判断ですよね?」
祐樹が医局にいるのを見た看護師が次々と質問にくる。時計を見るとちょうど五時だった。最愛の人が朝食のときに「まだ内緒」と言っていたが、いったい何が起こるのだろうか?彼のあの表情は無垢な子供のような魅力に溢れていてつい見惚れてしまった。そんなことを思いながら看護師に返事をしていると、医局のドアが上品な動作でスライドしている。
「田中先生、お話は内田教授から伺いました。好奇心でアニメの配信サイトを契約し、一気見しました。アニメってあんなに動きが早いものなのですね。田中先生が演じる役を見ていて適役だと思いましたのよ。ただ、差し出がましいのですが、あの役は唇に視線がいくように設定されているような気がいたしましたの。ですからこれを差し入れに参りました」
長岡先生は白衣のポケットからぎこちない手つきで小さい箱のような品を取り出そうとしている。ポケットの大きさからして、すぐにに出せそうな小箱なのに、なぜかもたついている。彼女は内田教授が医局へと誘うほどの優秀な内科医だが、手先は驚くほど不器用だ。その不器用さは、幼稚舎からある学校のエスカレーターに乗ろうとしたら、高校の担任が「その手つきではウチから医学部への推薦は出来ない。来年から医学部の枠を減らされかねない」と言わしめるほどだったと聞いている。ただ、彼女は、実技試験のない東大医学部にストレートで入っている。
「わ!素敵」
長岡先生のすぐ近くにいた三好看護師が思わず声を上げてしまったという風情で、慌てたように手を口に当てている。いったい何がそんなに素敵なのだろうか。
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