「気分は下剋上 ハロウィン 2025」19

「気分は下剋上 ハロウィン2025
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This entry is part 22 of 31 in the series 気分は下剋上ハロウィン2025

「ちなみに呉先生はマンガやアニメは見ますか?」
 呉先生の口からそれらの話題が出たことはない。しかし、病院内には、内田教授のように家では見るけれども、むやみに口外しない人も一定数いることも祐樹は知っていた。
「いえ。見る習慣はありません。それにウチの患者さんは年齢層が高いので話題にもならないんです。だから話を合わせるために見る必要もないんです」
 そういえば祐樹は野球にさほど興味はないが、主治医を務める患者さんが巨人ファンの場合朝のニュースで勝敗をチェックしている。全ては共通の話題作りのためだ。もし「呪いが廻る戦い」のアニメを見ていたら、説得の難易度も上がっていただろうと思うと、ホッとした。
 アニメの一期の段階で主人公が「制服」と言っていたと祐樹は記憶しているが、呉先生は未見なので、その心配もない。細く長い指でスマホを触っていた最愛の人が、祐樹に画像を見せてくれた。「これでいいのか?」と眼差しで聞いている。祐樹が頷くと呉先生に画面を見せている。
「うーん、似てますか?というか……、これって制服じゃないですか?この年でこういうのを着るのはちょっと……」
 呉先生がそう言うのは想定内だった。
「制服ではないです。制服って、皆が同じ服を着ますよね?主人公はほら……」
 祐樹がスマホを操作しようとしたら最愛の人が主人公の画像を表示してくれた。
「ご覧の通り赤いパーカーを着ています。制服だと許されないことですよね?それに映画版の主人公のせい……いえ、服装なんて」
 うっかり制服と発言しそうになって言い換えていると最愛の人は映画版の主人公の絵をスマホの画面に出していた。
「こちらは色も異なります」
 呉先生は疑わしそうな眼差しでスマホを見ている。
「本当ですね。こちらは白の上着です」
 呉先生も一応は納得したようだったので、安堵した。
「標準服みたいなものです。この話は霊と戦うマンガですが、霊と組んでいる人間もいて、ああ、川口看護師が演じる予定の登場人物もそういうカテゴリーなのです。霊は見たら分かるのですが、人間なら敵味方が判然としないので服で分けているような感じです」
 祐樹の口から出まかせの言葉を聞いて最愛の人が感心したような表情を浮かべていた。最愛の人はマンガもアニメも見ているので、味方側の呪術師が高専を卒業したら自由な格好で戦闘に参加することを知っている。マンガの知識があるのとないのではこうも説得する労力が異なるのかと少し得をした気分だった。
「あれ?この白い髪は田中先生が演じるキャラクターですよね?」
 呉先生が華奢な首を傾げている。高専生編では主役であるため、そのキャラクターの露出は高い。
「そうです」
 呉先生はシワの寄った白衣に包まれた肩を震わせていて、デスクの上に常備されていると思しき洋菓子を手に取り、個包装のフィルムを破ろうとしていた。その時に笑いの発作が起こったのか、力が余って焼き菓子が宙を飛んだ。最愛の人が、ツバメよりも素早く、しかも優雅に動いてフィナンシェを転落の危機から救っていた。
「すみません。お手数をお掛けして……。この服も、私が扮する登場人物に似ていますね。標準服だからでしょうが。それにしても……」
 くつくつという笑い声が、赤いミニ薔薇のように、不定愁訴外来の空気を明るく染めている。「私が扮する」との言い方から決意は固まったようで安心した。
「香川教授、キャッチしてくださって有難うございました。こんなに美味なお菓子を一個でも無駄にしたくはないので」
 最愛の人はポケットから出したテッシュに焼き菓子を載せて呉先生に差し出している。
「教授も召し上がりますか?」
 最愛の人も大好物な洋菓子店の焼き菓子なので花のような笑みを浮かべて頷いていた。
「では、食後のコーヒーを淹れますね」
 ダンスを思わせる身軽さで立ち上がった呉先生はまだ肩を揺らしている。
「あの白い髪と青い目の登場人物、かなり若いですよね。それを田中先生が演じるのは最高に面白いです」
 それはそうだろう。さすがに十代のキャラを演じるには無理がある。いくら祐樹が年の割に童顔だとしても恥ずかしいことに変わりはない。
「少しでも若く見られるように頑張ります」
 薫り高いコーヒーが室内の空気に混じっている。呉先生は箱の中からフィナンシェやマドレーヌを取り出してピラミッドのように並べようとしている。しかし、いかんせん手先が器用ではないので何度も崩落の憂き目に遭っていて、それを見かねたのか最愛の人が椅子からしなやかな動作で立ち上がってピラミッド作成を手伝うことにしたようだった。
「若作りですか?具体的には?」
 最愛の人が精緻に積み上げたフィナンシェは実際よりもとても美味しそうに見えたので祐樹は、その中から一つ手に取った。
「ストレスが原因で顔色が悪くなるようですよ。専門ではないので詳しくはないのですが。性欲も溜め込むとよくないらしいです。呉先生もこの顔に近づくために森技官相手にベッドで若さを追求したらいかがですか?」
 先ほど呉先生の大爆笑のお返しのつもりで告げた。呉先生は祐樹の言葉にコーヒーを噴き出していた。
「え……?あれ、テッシュはどこに……?」
 最愛の人は頬をほんのり紅く染めながら立ち上がって呉先生のデスクの後ろに鎮座しているテッシュの箱を手渡していた。
「有難うございます。教授も、田中先生の若い雰囲気作りに協力なさっているのですか?」
 デスクの上の書類を拭きながら呉先生は興味津々といった感じだった。

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