「気分は下剋上 ハロウィン2025」17

「気分は下剋上 ハロウィン2025
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This entry is part 20 of 31 in the series 気分は下剋上ハロウィン2025

「病院内新聞でそういう催しがあったということは知っていました。田中先生が大活躍したことも書いてありましたね。しかしそれが何か?」
 呉先生は、最愛の人と祐樹がここに来た目的を、まだピンと来ていないようだった。
「実は今年もハロウィンの催し物を開催するのです。そして呉先生にもご助力をしていただきたくお願いに参りました」
 呉先生は持っていたお箸を床に取り落とした。最愛の人がすらりと立ち上がり、それを拾って水で洗う。
「え?そんな目立つことが嫌いなオレ、いや私の性格を、教授や田中先生もご存知ではないですか?それにコスプレですよね。そんなの絶対無理です!!」
 唾を飛ばさんばかりに断固として拒否している。確かに呉先生は目立つことが苦手だ。そして呉先生の役どころは厳密には異なるものの、学生服のような恰好で、しかも童顔だ。呉先生のコンプレックスをもろに刺激してしまうような気がした。なし崩し的にコスプレを了承させ、「この格好でお願いします」と事後承諾で押し切るしかない。
「呉先生が教授職になるのを森技官や私達の前で約束しましたよね?」
 怜悧で端整な、しかし有無を言わさぬ最愛の人の声が、古式ゆかしい診察室にかすかに響いた。
「それはそうですけれど……。同居人も直接ではないですが、精神科に働きかけをしていると言っていました」
 祐樹が悪夢を見てしまった――とはいえ川口看護師に一ミリも関係がない。単なる祐樹の邪推、あるいは考えすぎだ。川口看護師も真殿教授の悪口を言っていた。教授に叱責をされたら小児科に移ることも辞さないという決意を固めていた。川口看護師や祐樹が知り合いになった梶原先生をネズミにたとえるのは何だか抵抗があるが、船が沈没する時に真っ先に逃げ出すという俗説通り逃げ出したがっている人は一定数いるのも事実だ。しかも能力のある人から病院を去るというのはマンパワーとしては痛い。
「そうみたいですね。教授は前任の教授からの指名というパターンが多いですよね」
 呉先生は乾いた笑い声を立てた。
「真殿教授がオレなんか指名しないですよ。5千円賭けても良いです」
 真殿教授と呉先生は犬猿の仲なので呉先生の言うとおりだ。呉先生が一人称「私」ではなくて「オレ」というときには興奮しているしるしだ。
「ハロウィンの主催者である浜田教授やその協力者の内田教授は教授会の主流です」
 呉先生は真顔で口を開いた。
「香川教授も教授会のメインストリームですよね。次期病院長は教授に決まりというウワサはよく聞きますし、教授もそのお積りですよね」
 呉先生は春の日だまりに咲くスミレのような笑みを浮かべている。香川院長・・賛成派なのだから当然かもしれないが。
「精神科の内部工作は森技官にお任せするとして、外堀を埋める必要があります。内田・浜田教授を味方につけると病院内の世論が呉教授・・歓迎ムードになりますよ。そのためにはお二方の知己を得るのは得策だと思います」
 最愛の人の落ち着いた声がコーヒーの香りの中に溶けていく。
「そうですよ。私は乗り気でないハロウィンのコスプレをしたのですが、それ以降浜田教授とも仲良くなれました。そういう副次的効果がありますので呉先生にも、そして真殿教授のパワハラに悩んでいる精神科の面々のためにも浜田教授と知り合いになっておくに越したことはないと思います。それに内科の内田教授は革命の闘士という側面もあって、色々とアイデアをお持ちだと思います。そういう人とお近づきになれる千載一遇のチャンスだと思うのですが」
 呉先生は、考えに沈むスミレのように、コーヒーを一口飲んでいる。
「同居人があの沸騰湯沸かし器の弱点を見つけたらしいです。今はまだ公にしていないとのことで私にも教えてくれませんが。それが病院の上層部の知るところとなったら真殿教授の失墜、そして教授選考は指名ではなくて教授会に諮ることになるかもしれないです。もしそうなったら、香川教授や内田・浜田教授の発言力は多大なものになりますよね。しかし、精神科と小児科とでは接点がないのが難点です」
 呉先生は豪華な幕の内弁当を親の敵のように食べていた。
「精神科所属の人が参加するなら呉先生も心理的ハードルは下がりますか?」
 祐樹はしめしめと思いながら質問した。赤信号、皆で渡れば怖くないというか、誰誰さんが既に決めているという前例があるなら呉先生も承諾してくれるだろう。
「実は――」
 スマホを取り出して川口看護師が扮する予定のキャラクターを表示させる。
「このキャラは既に決まっています」
 呉先生は、突然の雨に打たれたスミレの花のような表情を浮かべた。
「こんな筋肉の鎧みたいな人、病院に……ああ、精神科の川口看護師ですか。確かに適役ですね。筋骨隆々ですし」
 「筋骨隆々」と言いながら最愛の人に気付かれないように祐樹を一瞬だけ意味ありげに見た。祐樹の悪夢の原因が川口看護師だと看破したに違いない。

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体調不良で書くべき小説が大渋滞を引き起こしています。 「知らぬふりの距離」は季節的に急がないので、 「ハロウィン2025」「イルミネーション」を先に書きます。 すみませんがご了承ください。

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