「祐樹、今夜もものすごく感じた。ほら、まだ手足が愛の交歓の余韻で震えている」
最愛の人が望むので繋がりは解いたものの、後始末はしていない状態で腕枕をした。祐樹の手で乾かした髪の毛も、再び汗の雫を宿らせているのが情交のあとという感じで悪くない。それに最愛の人の肢体は甘く薫っているのも大輪の花のようだった。
「もう少し私も筋肉をつけたほうがいいですか?」
最愛の人は愛の交歓で流した涙の雫が宿っている睫毛を不思議そうに動かし、そのせいでメレダイヤのような煌めきも綺麗だ。
「どうして?」
こういう甘い時間なら何を聞いても大丈夫な気がした。もちろん言葉は選ぶが。
「川口看護師の筋肉を褒めていらっしゃいましたよね」
祐樹は、嫉妬心を見抜かれないためもあり、二つの紅い尖りに指を進めそのごく小さな輪郭を優しく辿った。
「え?褒めていたか……?」
紅色に染まった唇から、潔白を示すような声が漏れた。
「私は精神科では合理的な選択だと思っただけなのだが……。躁状態や統合失調症の患者さんが暴れる場合、脳のリミッターが外れて普段の二倍程度の力が発揮される。いわゆる『火事場の馬鹿力』というものもそれと同種類だと考えている。それはともかく、そういう患者さんに対応できるのはああいう筋肉を持った看護師だけだろうなと思ったのだけれども?プロ意識で鍛えているのだと思うと好感を持ったのだが?」
祐樹の指の戯れに恍惚とした表情を浮かべ、その甘い声には怜悧な響きが宿っている。
「え?そうだったのですか?」
確かに香川外科では暴れる患者さんはいない。そもそも心臓バイパス術を必要とする人が暴れるというのは医学的にもあり得ない。そして祐樹は最愛の人と異なって精神科の内情を全く知らないために、とんだ邪推をしてしまった。
「あ、祐樹。そういうふうに優しく触れられるのも気持ちが良い……」
胸の紅い尖りをやわやわと愛していると最愛の人が砂糖菓子のような甘い声を出している。
「そうなのですね。だから、腹筋を鍛えるときにも『有意義』とおっしゃったのですね」
精神科にも造詣が深い最愛の人の視点だとそういう判断になるのだろう。
「――川口看護師があのアニメを知っているかとお聞きになったときに、笑みを浮かべていらしたのは何故ですか?」
最愛の人は来るべき病院長選挙に立候補すると決めたのちには意識して笑みを浮かべるようになったのは知っていた。それまでは病院内の彼の怜悧で端整な顔は氷の彫刻のようだったのも知っている。祐樹と二人きりのときには花のように笑う彼とはまるで別人で、近づき難い空気をまとっていたのも知っていた。今は努力して笑みを浮かべている、そのせいだろうか?
「知っていたほうがイベントに参加する心の障壁が低くなるだろう?だから知っていることを内心で祈っていたのが表情に出てしまったのだろうか?笑みを浮かべた記憶はないのだけれども」
先ほどからの会話の流れでそんなことだろうとは予想したが、最愛の人の事もなげな口調に内心忸怩たる思いを抱いてしまった。きっと川口看護師という、祐樹の周りにはいない筋骨隆々の人が目の前に出現し、その腕を最愛の人が(患者さんを抑え込める)という事務的かつ好意的な視線で見ていた。それを祐樹が、思い切り誤解してしまった。
最愛の人が「真殿教授に川口看護師が睨まれたら小児科に行けばいい」と言ったのも患者さんの精神的なケアまで考え、自然に笑みが零れたのだろう。容態がさほど悪くない男の子だったら、川口看護師と遊ぶのはきっといい結果をもたらすに違いない。
「あ……祐樹、それ以上強く触れられると、もう一度身体の中で祐樹を感じたくなる……」
溶けた角砂糖のような声が寝室に金の粉のように撒かれているような気がした。最愛の人の花園の門を指で確かめると、可憐なすぼまりが祐樹の撒いた真珠の迸りを載せて息をするように動いている。
「もう一度、聡を抱いてもいいですか?」
取って置きの甘く低い声を紅色の耳朶に流し込むと、最愛の人は散らされるのを待つ満開の紅薔薇のように頷いた。
「ああ、祐樹、呉先生からLINEが来ている」
二回目の愛の交歓のあとで、二人してシャワーを浴びた。
「聡と激しく愛し合ったせいでお腹がすきました」
そう言った祐樹に最愛の人は鍋焼きうどんを作ってくれた。出汁の美味しさは言うまでもないが、椎茸にも塩味がしみ込んでいて噛むと椎茸の味が最高に美味だ。向かい合って食べていると最愛の人が思い出したようにスマホを取り出して呉先生からのLINEを見ている。
「先ほどのLINEにあった干し柿のことは返信した……。ただ、呉先生にも説得する必要があるだろう?祐樹だけで不定愁訴外来に行くのか?」
最愛の人は綺麗な端使いでうどんを口に運びながら聞いてきた。
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