気分は下剋上 叡知な一日 最終話(18禁)

Uncategorized
This entry is part 4 of 4 in the series 気分は下剋上 叡知な一日

※このお話には大人向けの描写(R-18相当)が含まれます。年齢に達していない方の閲覧はご遠慮ください。

 深すぎる悦楽の深淵に揺蕩たゆたう最愛の人の肢体を、祐樹は余すところなく目に焼き付けようと、なかば綻んだ唇に唇を重ねてから身体を起こした。描いたように整った眉が苦しげに、しかしどこか甘い香りがしそうな感じで寄せられ、滑らかな紅色の頬を伝う汗は、祐樹が起こした乾いた絶頂の余波を映しダイヤモンドよりも煌めいていた。
 その胸の尖り――祐樹がさきほど歯を立てた場所は、まるでビジョンブラッドさながらに鮮やかな紅に染まり、もう片方は紅い薔薇の花びらのような美しさで、仄かに脈打っていた。そして点から吊るされた見えざる意図に翻弄される花芯は、ひくり、ひくりと震えながら、先端から水晶のような雫を撒いている。紅い太刀魚のように艶めく脚が大きく震え、そのつま先まで歓喜の波が押し寄せているのだろう。丸まった足の指がぎゅっと緊張し、微かな震えとなって最愛の人の全身へと反響していくようだった。
 そんな彼の肢体を衝動のまま抱きしめた。すると、乾いた波が引いたのか、祐樹の腕の中で、最愛の人は大きく息を吐いた。その息すら薔薇色に染まっているような気がする。最愛の人はふるりと肢体を揺らした。絶頂を超えたばかりのその肉体は、どこか熱を持ったまま力が抜け、まるで絹のように柔らかく、祐樹の腕の中に沈み込んでいく。足の指はまだわずかに丸まっていたが、それもやがて解け、花がしおれるように微かにほどけていった。紅色の唇から洩れた小さな甘い吐息は、確かな快楽の証――それが真珠の熱い飛沫となって現れることがなくとも、彼の肢体は確かに頂に達していた。
 最愛の人は、紅色のしなやかな指を祐樹の下腹部へと這わせた。
「祐樹はまだ達していないだろう?もしよければ、口で愛そうか」
 その艶やかな囁きに、祐樹は微かに笑った。彼の口淫がいかに至高か、祐樹しか知らない。喉奥まで全てを受け入れ、恍惚とした吐息とともに咥え込んでくれるあの技巧。しかし、たとえ相手が彼であっても、一度結ばれた後にそうさせるのは忍びない。もしシャワーを浴びて綺麗に整えたあとであれば、きっと喜んでその誘いに応じただろう。
「いえ、聡の……その、艶やかで淫らな乾いた絶頂を――余すところなく拝見できましたので、私は満足です」
 祐樹は最愛の人の背へと腕をまわし、抱きしめた。背骨に触れるほど深く、温もりごと抱きしめる。
「……その代わりに。しばらく、こうしていてもいいですか?」
 最愛の人は何も言わず静かに頷いた。そして――視線が絡み合う。その瞳には言葉よりも澄んだ想いが宿っていた。欲ではない。執着でもない。ただ、深く静かに「愛している」と伝えていた
「――祐樹、今夜はナツキさんと会えて、良かったと思っている。またどこかで会いたいとも」
 祐樹は、最愛の人の紅潮した頬を指先でそっと、そうまるで羽毛のように叩いた。
「愛の交歓の後の戯れに、私以外の名前が出るのは――少し嫉妬しました」
 祐樹は、笑ってはいる。しかし、その声にはわずかな本気が滲んでいるのを自覚している。
「もちろん、聡がナツキに下心を持っているとは思っていません。しかし……」
 祐樹は一瞬だけ視線を逸らしてから、瞳にそっと力を宿し、真っすぐに見つめた。
「――私の腕の中にいる時くらい、私のことだけを考えていて欲しいのです」
 最愛の人は少し目を見開き、照れくさそうに笑う。
「そういえば、大文字焼きの日も楽しみにしています。『大』の字をさかずきに映して飲む風習、いいですね。ただ……そのあと、こういう行為をしてもいいのでしょうか?――神様に怒られないでしょうか」
 最愛の人の唇に華麗な笑みの花を咲かせた。
「大文字の送り火は、ご先祖様の霊をあの世へ見送るためのもの――その時間、街はしんと静まり返る。だから祐樹ともう一度ここで抱き合いたいな……」
 祐樹は答える代わりにそっと唇を重ねた。
「その時には、フェンスが直っていればいいですね」
 祐樹は悪戯っぽい笑みを浮かべて最愛の人を見つめた。
「見上げるご先祖様たちに少しだけ嫉妬してもらえるくらい――情熱的に、聡を愛したいのです。フェンスの網目に聡のルビーの尖りが私の律動で擦れたら、きっと気持ちが良いと思いますよ……」
 ビジョンブラッドのように煌めく尖りを羽毛のような軽やかさで撫でた。最愛の人は心地よさそうに笑みの花の色をひときわ濃く染めた。
「送り火の日が、とても楽しみだ……」
 最愛の人からの口づけは夢のように儚く――それでいて、ダイヤモンドの煌めきのように確かな感触を残した。

  <完>

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

小説(BL)ランキング
小説(BL)ランキング

 こうやま みか 拝

Series Navigation<< 気分は下剋上 叡知な一日 34(18禁)

コメント

タイトルとURLをコピーしました