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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」53

「初めましてですよね?心臓外科の田中と申します。これからよろしくお願いいたします」 挨拶を交わしたからには顔と名前は憶えておかなければならない。最愛の人なら一秒も経たずに暗記するだろうが、あいにく祐樹はそんな特技は持ち合わ...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」52

「医局内の医師ならそれこそ医局長の柏木先生や、それでも被害が続くようなら香川教授からの厳重注意で鎮火はするでしょう。香川教授はそこまでなさらないと思いますが、例の瞬間湯沸かし器のような教授の場合、僻地の病院に左遷されること...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」51

「こちらは入院患者さんの有瀬誠一郎のご子息の夏輝さんです。すっかり広瀬看護師と打ち解けたようですね。夏輝さん、こちらは医局長の柏木先生です」 柏木先生は一瞬怪訝そうな表情を浮かべた。医局長として入院患者の把握は職務の一環だ...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」50

 単に紳士的に振る舞おうとしているだけなのか、それとも……。しかし、妻の香織さんや夏輝という息子がいる。早計な判断は慎むべきだろう。ただ、確かに有瀬氏の病室に入ったときに、広瀬さんや三好看護師がいても淡々としていたなと思い...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」49

「柏木先生、准教授会が残念ながら延長になったようです」 黒木准教授は外科的なセンスは並みといったところだが仕事は早い。医局で何かが起こったとき、すぐに連絡が取れるように情報を書き換えたのだろう。兵頭さんのウツの件を早く相談したかっ...
「気分は下剋上 知らぬふりの距離」

「気分は下剋上 知らぬふりの距離」48

 滅多に見せない柏木先生の真剣な顔は心なしか男前に見えた。「もちろんです」 柏木先生は医局の秩序を重んじる人なのでまずは黒木准教授に報連相をするつもりなのだろう。「今の時間は確か……」 柏木先生がパソコンの共用ファイルを開...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」47

 執刀医も兼ねている祐樹は患者さんとの長い時間のコミュニケーションは不可能なので、移動の時間も時短を心がけている。「田中先生、三分お時間宜しいですか?」 三好看護師が小さな声で祐樹を呼び止めた。一般的な会社に在籍したことはないので...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」46

「有瀬さん、お加減いかがですか?」 夏輝の父・有瀬誠一郎氏の主治医として病室のドアを形ばかりノックしてスライドさせた。ベッドに半身を起こしていた有瀬氏は祐樹をちらっと見た後、ドアの向こうに誰かがいるように視線をさまよわせている。「...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点27

「私はまだ大丈夫ですが、貴方は眠そうですよ。明日も仕事なのでお休みになったほうがいいかと思います」 祐樹の低い声が夜も更けたキッチンにしめやかに響いた。「そうだな。祐樹が帰宅する午前三時は眠りが自然と浅くなって帰宅した気配を嬉しく...
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「気分は下剋上 知らぬふりの距離」45

 困ったように祐樹を見、頷きを返すと今度は呉先生の表情を確かめている。呉先生も淡いスミレ色の笑みを浮かべているのを確かめた夏輝は真剣な表情に変わった。それぞれの反応をうかがってから決める点が「空気を読む」夏輝の本領発揮とい...
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