「気分は下剋上 ○○の秋」1

◯◯の秋 2025
This entry is part 1 of 4 in the series 「気分は下剋上 秋の愉しみ」2025

「お早う、祐樹。朝食が出来ている」
 最愛の人の唇を唇で感じて目を覚ました。昨日、いや今朝の未明に病院から帰宅し、パジャマに着替えて最愛の人の肢体とその温もりを感じながら眠りに落ちた。墜落睡眠と名付けている祐樹の熟睡からぽかりと意識が水面に上がったような気がした。
「お早うございます。コーヒーのいい薫りですね……」
 最愛の人は休日の朝に相応しく、祐樹の大好きな襟ぐりの深い薄いセーターにギャルソン風のエプロンを着けている。
「今日はカボチャのポタージュの出来がいいので、ぜひ味わって欲しいな。祐樹の口に合うと良いのだが」
 最愛の人の唇にしっかりキスをしてからふかふかのベッドから起き上がった。
「口に合わせますよ。いや、貴方の料理は全て美味しいので、確かめるまでもないでしょうが」
 朝の身支度を手早く済ませキッチンに入ると鮮やかな黄色のスープが、ひときわ目についた。
「これは美味しそうですね」
 その他には焼きたてと思しきバゲットがあり、カボチャのポタージュに浸して食べると美味しそうだ。そして目にも鮮やかなサーモンのサラダがドレッシングの油分をまとって黄金色に煌めいている。
「貴方が作って下さる朝食はいつも美味しそうですね」
 コーヒーを淹れていた最愛の人が薄紅色の微笑みを浮かべて祐樹を見ている。
「正確にはブランチだけれども。昨夜も忙しかったみたいなので、もっと眠って貰いたかったが、今日は栗拾いに行くための服を買いに行く約束だっただろう?それが楽しみで、つい起こしてしまった……」
 彼が祐樹の前に薫り高いコーヒーを置いてくれた。世界一美味だと信じている最愛の人の淹れたコーヒーを飲むと心も身体もシャキッと目覚める。
「そうでしたね。とりあえず頂きます」
 手を合わせたら最愛の人の薄紅色の微笑が深みを帯びた。
「召しあがれ」
 二人してスプーンを持ってカボチャのポタージュを掬った。
「ホクホクしていてとても美味しいです。栗のような食感ですね」
 最愛の人も薄紅色の細く長い指でスプーンを操っている。
「それは『栗カボチャ』という品種で、デパートの店員さんが『ポタージュにお勧めです』と言っていたがまさにその通りだった。それに今日、栗拾いのための服を買いに行くのだろう?またセルフレジだと楽しいな……」
 薄紅色の微笑を浮かべた唇が、無邪気な声を出している。
「それは期待しないでください。GUやユニクロの製品は安くてリーズナブルですが、耐久性に問題があるのです。いつか二人で行った神戸の布引の滝のように、手軽なハイキングならそういう製品で充分なのですが、栗はイガイガがついていますよね?間違っても手や足に怪我を負うことがないような服装でないと。貴方の手に怪我をさせた犯人が私だと分かったら、医局の皆につるし上げられますし、手術を待っている患者さんにも申し訳が立たないですから。もっと本格的なお店に行こうと思っています」
 最愛の人は縁がないような店を選んでいた。祐樹も聞いたことがあるだけで、実際に店内に足を踏み入れたことはないが、耐久性はピカ一だろう。その代わり見た目がイマイチだが、二人で山の中に入るので、誰に見せるわけではない。
「本格的な店……登山専門店とか?」
 薄紅色の唇にサーモンが映えてとても綺麗だった。祐樹はサラダボウルのふちに花型にかたどったワサビをアボカドに載せ、醤油を垂らした。最愛の人の手作りのドレッシングも最高に美味しいが、アボカドにはわさび醤油がとても合う。
「山登りも楽しそうですが、あくまで栗拾いですよね。軍手やトングはそういう店では売っていない可能性があります」
 バゲットに浸したポタージュを食べていた最愛の人が、細く長い首を傾げている。
「トング?それはバーベキューで肉をひっくり返すときに使うものではないのか?栗の大きさをサイトで見たが、役に立たなさそうだったのだけれども……」
 ごくごく真面目な感じが逆に可笑しく、ついつい笑みを深くした。
「バーベキューや焼き肉屋さんで使うのもトングですが、もっと長い物もあります。ばさ・・と言ったほうが良いですか?」
 最愛の人は納得したように頷いている。
「ああ、それなら小学校の用務員さんが落ち葉や空き缶を拾っていたのを思い出す。あれなら安全にイガの部分を取り除けそうだ……。それはどこに売っているのだ?」
 遠足の準備をする小学生のように、弾んだ声を出している。最愛の人は病気のお母さまが心配で遠足や林間学校などの校外学習には参加していない。だからこそ、そういうイベントが楽しいのだろう。
「『ワークマン』というお店ですよ。行ったことはありますか?」
 最愛の人は楽しそうな笑みを浮かべて首を横に振った。
「実は私も通りかかったことしかないのですが、栗拾いの衣類や道具を揃えるのにふさわしい店みたいです。もともとは、『ワークマン』という店名にふさわしく、建築業の人や土木作業員などが利用していた店みたいですが、規模を拡張してアウトドア用の物も色々売っているみたいです」
 彼はジノリのコーヒーカップを傾けながら白い花のような笑みを浮かべている。
「そうなのか?そういえば、小学校のときの用務員さんもポケットがたくさん付いている作業服を着ていたな。ああいう服はどこで買うのだろうかと不思議に思っていた。あれだけポケットがついていたら便利だろうなと羨ましかった思い出がある。当時からそういう店はあったのだろうか?」
 最愛の人は普段以上に食べるスピードが速い。きっと知らない店に行きたいという好奇心からだろう。

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