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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」33
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点23
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」40
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それぞれが何を思っていたのか、併せて読んでいただければ幸いです。
有瀬氏は、奥様の香織さんが不在のため、夏輝さんに入院準備を頼んでいた。こうして見る限り親子仲は良好のようだった。自分も高校生の頃、母に着替えなどを持っていったなと懐かしく思い出した。夏輝さんは家族に性的嗜好のカミングアウトをしていないと聞いていたが、自分も母がどんな気持ちになるのか分からなかったので余計な話はしていない。祐樹は「お母さまに言う前に気付かれていた」と太陽のような明るさで笑っていたが、自分は一応婚約者がいたし、母も疑念を抱いていなかっただろうと思う。
婚約者といっても母の入院先の院長のお嬢さんが「香川君、全国模試の成績見たわ。でも、医学部に行くにはお金が必要よね?私は、一人娘だから、あなたが将来婿養子になって病院を継いでね。でも、私は家庭を守るなんてまっぴらだわ。院長夫人としては振る舞うけれども、それ以外は好きにさせてね。その代わり今から大学卒業までの生活費とか学費はパパから支払ってもらうことにするから」と言った。いわゆるギブアンドテイクの関係だった。どうせ女性を愛することができないと分かっていたので、誰でも一緒だと思っていた。模試の成績が良かったとはいえ、医学部に入るためにはまとまったお金が必要だ。心臓が悪くて入院していた母を何とか助けたいとの思いから医学部に行けたらいいなと思ってはいたが、経済的に無理だと諦めていた。自分にとっては渡りに船だと思ったし、お嬢さんはともかく院長先生には良くしてもらっていた。
その後、大学受験対策に忙殺していた頃、そのお嬢さんはボーイフレンドと深夜のドライブに出かけ、事故死した。その件で「自分に関わる人間はみな不幸になる」という思い込みを抱いてしまった。お嬢さんが亡くなったので、援助は打ち切りだと考えていたが、院長先生の厚意で大学卒業まで学費や生活費は出してくださった。もちろん、自分がアメリカで得たお金で院長先生に多めに返した。
夏輝さんと有瀬氏を見ているとそんなことを思い出した。ちなみに、祐樹に出会ったのは大学に入ったのちのことだ。その前に、母に「京大医学部に合格した」と報告した時の母の儚げでそして幸せそうな顔は一生忘れないだろう。その直後母は逝き、院長先生の援助を受けながら大学に通っていた頃、キャンパス内で祐樹を見かけた。太陽のような生気の溢れるオーラのようなものを纏っていた祐樹に、この人なら不幸など寄ってこないに違いないと思って強く惹かれた。ただ何を話していいのか分からなかったし遠くで見ているだけだった。
「では、奥様がこちらの病院にいらしてから容態説明するということでよろしいですか?」
追憶から我に返り、確認した。
「はい。妻とは苦楽を共にしたかけがえのない人です。ですから、この病気も彼女と一緒に説明を受けたいのです。宜しくお願いいたします」
奥様の香織さんとは、お互いのイニシャルから名付けたと思われる「S&Kカンパニー」を設立し、国内二十一店舗展開。しかもキャッシュフローは潤沢という経営状態にしたのは、奥さんの香織さんの尽力によるところも大きいはずだ。有瀬氏は会社でもこういう話し方をするのだろうと思うほど、はつらつとした話し方だった。
夏輝さんはその言葉を聞いて、病室の床にすとんと腰を落とした。
「もう!すごく心配したんだから!田中先生が処置に当たってくれたからよかったものの、父さんのスマホから田中先生の声が聞こえてきたとき、僕は天地がひっくり返ったのかと思ったよ。でも、でも!取り敢えず無事でよかった……。田中先生、香川教授、父のことをよろしくお願いします」
夏輝さんは素早く立ち上がり、真剣そうな表情を浮かべ、大きくお辞儀をしてくれた。
「グレイス」で蓮っ葉というか、金魚のように軽薄に振る舞っていたのはやはり「ゲイらしく」と夏輝さんが思い込んでいたからで、こちらの常識を持った夏輝さんが本来の姿なのだろう。祐樹が入院時に必要な物などを説明している。
「分かりました。家のことは母が忙しいので通いの家政婦さんにお任せしている部分が多いんです。僕も家に何がしまっているか、あんまりよく分かってないんです」
夏輝さんは情けなさそうな表情を浮かべている。やはり年相応の夏輝さんのほうが似合っている。「グレイス」で見たときは無理に背伸びをしていたのだろう。
入院に必要な品物は祐樹のアドバイスで病院内のローソンで購入することになった。もっと夏輝さんと話したい気持ちはやまやまだったが、入院患者の有瀬氏ならともかく夏輝さんは見舞客だ。それほど長く話し込むわけにはいかない。どうしたものかと考えた。
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