- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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マンションの小路を二人して競歩以上のスピードで歩いた。何しろ時間がないし、教授職が寝坊して遅刻するなどということはあってはならない。教授職だって人間なので、寝過ごすこともあるだろうが、最愛の人は無遅刻・無欠勤をモットーにしている。その記録を破らせたくない。
「ここからは普段のスピードで歩きましょう」
大通りに出ると、今から出勤をする医師や看護師がたくさんいる。
「そうか。まあ、この時間だと大丈夫だろう。急いで歩いても良いのだが?」
最愛の人は良くも悪くも、自分が教授職であるということを軽く見ている。教授職が駆け足で病院に向かっているという図はあまり美しくないというか、他の教授はそんなことはしないということを分かっているのかなと微笑ましく思う。とはいえ、徒歩で病院に来ているのは最愛の人だけで他は自動車通勤か電車だ。
「それでは香川教授のブランディングに関わります。泰然として物事に動じない人というのが病院内の評判なのですよ。それなのに、寝過ごして走っている姿などは、私が許せません。食パンをくわえて走っていないだけまだマシですが……」
最愛の人は薄紅色の唇に仄かな笑みの花を咲かせている。
「『鬼退治アニメ』のスピンオフ作品のマンガでは、主人公の妹が竹の筒ではなくて、フランスパンをくわえていたな。あれは意味があるのだろうか?」
最愛の人は思案顔めいた表情だった。「お早うございます」などと最愛の人や祐樹に挨拶してくれた人は、この表情を見て、会話しようとしない。何だか難しい症例とか、難易度の高い手術のことを考えているように見えるのだろう。
「理由は二つあると思います。何でも少女マンガでは、朝寝坊をしてパンを食べながら登校しているヒロインにイケメンがぶつかり、それがきっかけで恋に落ちるらしいです」
最愛の人は涼しげな切れ長の目に可笑しそうな光を湛えている。きっとそんな事態が起こることが天文学的な数字だろうと思っているに違いない。
「貴方もご存知のとおり、主人公の妹は『人を食べないように』ということで竹筒を口に当てていますよね。スピンオフでは鬼として出てきたキャラも人間になっているのですが、あの特徴的な竹の筒を外し、代わりになるものをと考えたときに、円柱形のパンがフランスパンしかなかったのではないでしょうか?」
彼は何やら考えているようだった。
「焼きそばパンも円柱ではないか?」
その発想はなかった。
「そうですね。ただ、くわえるとなると、ある程度の硬さが必要となります。焼きそばパンは直ぐにクシャっとなるのではないでしょうか?――っと、ではこの辺りでお別れします。有瀬氏に主治医になった挨拶をしなければなりません。あと、夏輝が12時に不定愁訴外来に行くと昨夜のLINEで言っていました。呉先生と」
どんな話をしていたのですか?と聞きかけた時に小児科の浜田教授が朝の挨拶をしてきた。教授職同士が話しているところに口を挟むようなことは出来ない。「田中先生はどう思いますか?」など話をふられない限りは黙って聞いているというのが病院内の不文律だ。
「では後ほど医局で」
浜田教授に頭を下げて歩くスピードを上げた。
「有瀬さんお加減いかがですか?改めまして、主治医の田中です」
病室に入ると、有瀬氏は生気を取り戻したように見えた。そして昨夜は気づかなかったがその髪型は普通のビジネスマン風だが、よく見ると随所に工夫が凝らされてされている。祐樹のようにカットして終わり、というのではなく、美容師が丹精込めて整えているのだろう。そういえば彼は美容室を全国各地に展開する会社の社長だった。きっと髪もまた営業用なのかもしれない。
「田中先生ですか?お手数をおかけしますが宜しくお願いします。はい。昨夜は心臓が痛くて死ぬかと思いましたが、今は何ともないです」
視線は祐樹の顔だけではなくてドアと交互に見ている。
「夏樹さんなら面会時間にいらっしゃると思います。今は点滴で強心剤やニトログリセリンを入れているので心臓も楽だと思いますが、その点滴が切れたら大変です。香川教授を交えた……」
有瀬氏の顔がパッと明るくなった。よほど最愛の人の手技の腕を買っているのかもしれない。しかし、ご子息の夏樹さんが見舞いに来ると言ったときにはこんな表情ではなかった。嬉しそうにはしていたが。
「香川教授……、あの方に心臓を預けることができるのは望外の幸せです」
最愛の人の手技を慕って国内外から患者さんが押し寄せてきている。有瀬さんもそのうちの一人なのかもしれない。
「そうですね。心臓バイパス術自体は難しい手術ではありません――いえ、それは医師の視点から見た場合で、手術を受ける患者様は不安もあると思います。しかし、香川教授は手術成功率100%ですので、大船に乗ったつもりで手術を受けて頂けますよ」
弱った心臓にストレスは厳禁なので、あえて明るく告げた。
「容態説明は、明日奥様が京都に戻られるタイミングでよろしいのですよね?その時には香川も同席する予定になっています」
有瀬さんはホッとしたような表情だった。バイタルに異常がないか確認し「また参ります」と告げて部屋を出た。
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