「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点13

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This entry is part 41 of 51 in the series 知らぬふりの距離

この作品は、夏輝の父・有瀬誠一郎が搬送される前の、香川教授視点です。
毎日更新は無理ですが、時間のある時に不定期更新します。
教授がナツキのことをどう考え、祐樹も知らないうちにどう行動したのか――
気になる読者様に読んでいただければ嬉しいです。

 帰宅してオフィスタイムでないので気が引けたのだけれどもプライベートバンクの担当者に電話した。ここは顧客のためには最大限の便宜を図ってくれるのが売りで、「いつでもご相談に応じます」と常に言われている。
「もしもし香川ですが」
 ツーコールで相手が出たのは、こんな時間でもまだ仕事中だったに違いない。
『香川様、私に何かお手伝いできることがあるようですね。何なりとお申し付けください』
 いつもの穏やかな声ながら明瞭な話し方だった。
「実は有瀬誠一郎氏の件ですが、ご子息に連絡を取る方法はないかと頭を悩ませておりまして……」
 呉先生は昔あったという「紳士録」が絶対に今でも実在しているに違いないと力説していたが、そんなある意味では高級車や不動産投資、しかも遠藤先生が引っ掛かりそうになったのとは全く別の、本当にいい物件を流す顧客として「紳士録」は有効だと思うが所詮は都市伝説に近いような気がする。
『あいにくそこまでは分かりかねます。当行が、調べることができる範囲ですと、家の固定電話程度です。お聞きになられますか?』
 ……ナツキさんは有瀬誠一郎氏とその妻香織さんとの間に出来た一人っ子だと聞いている。そして夜間は両親が家にいないので、ついついゲイバーに遊びに来ていると「グレイス」で言っていた。しかし、祐樹と付き合うという最高の幸運は、それだけで充分すぎるほど使い切ってしまったような気がする。だから自分が電話した夜に限って両親が家にいて、ナツキさんに取り次いでもらえない可能性のほうが高い。
「一応知らせて頂けますか?」
 祐樹ならナツキさんの家の電話に掛けても、それっぽいことをまくし立てナツキさんの電話番号を聞くことが可能のような気がするが、自分には無理だ。
「ありがとうございます。復唱しますね」
 自分にとっては宝の持ち腐れのような気がする家の電話を聞いて受話器を置いた。さて次は、ショーン・マッケンジー氏へのメールだ。呉先生のアイデアも自分には考えつかなかったが有名なスターでもある彼がマメに返信してくれるかどうかは分からない。
「勇気あるジャパニーズボーイが、ハリウッド女優を実際に見て、それでも彼の夢が壊れないか心配している。ショーンが関わっている映画のプロモーションの中で日本、出来れば京都で開催されるものはないだろうか?もしあったらバイトでも良いので彼を雇ってほしいと思っている。返信してくれればありがたい。ショーンも日本に来るときがあったら是非知らせて欲しい。京都見物なら任せてもらえれば嬉しい」
 だいたいこのようなメールを打ったと思ったら即座に返信が来たのには驚いた。
『サトシ、私を頼ってくれてありがとう。そうだな……映画では『SAMURAI』のプロモーションがある。全米でも割と話題になっているが本場日本でも盛り上がってくれるように主演俳優とヒロイン役の女優が二週間後に来日する。主演俳優は私の親友なので気安く頼めるがどうする?ハリウッド女優はサトシの慧眼通り、性格がイマイチなのは多いな。今回のヒロインはお騒がせ女優というレッテルを貼られていないのは『目覚めた』女優ではないからだ。もし『目覚めた』女優、しかも声が大きいし、インスタで爆弾発言や問題発言の多い女優がいなければ彼女も確実にリストアップされるだろう。そういう彼女を見て嫌だと思えないならジャパニーズボーイがこちらに来てもやっていけるだろうな。そのサトシがお気に入りの彼がバイトに潜り込めるように一応は手配しておく。それでいいかい?』
 目覚めた女優……、そういえば某ディズニー古典アニメの実写版で「王子はストーカー」だの「あんな古臭い価値観なんて今の世の中には要らない」だの「私達褐色の肌の人間がどれだけ迫害されたと思っているの」などと言っていたという件は知っていた。差別がないとはいえないが、アメリカの黒人差別の歴史をさかのぼれば、「奇妙な果実」という歌で象徴されるように、黒人のご遺体が木に吊り下げられていたという本当に恐ろしい時代があった。それに比べれば今はそこまでに悲惨な時代だろうか?
 それはともかく、ナツキさんに連絡しないとならないなと切実に思った。やはりダメ元で自宅に電話するべきだろうか?確率では三分の一でナツキさんが出るだろうが……。そう考えていると、黒木准教授から電話がかかってきた。
「もしもし香川です」
 黒木准教授は滅多なことでは電話してこない。容態急変があったにせよ、彼の職責でさばいてくれるが、それ以上のことがあったに違いない。
『おくつろぎのところ申し訳ありません。藤原さんが急性心不全を起こしまして。手術のリスケもありますし、今の急変は厄介です』
 手術が決まっている患者さんだったが、この時期に急性心不全はまずい。
「直ぐに出ます。長岡先生に連絡をお願いします」
 身支度を整えて病院へと向かった。

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