- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
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祐樹が話していると、有瀬氏は夏輝を感心したように眺めている。あまり会話のない家庭だと夏輝は言っていた。だから夏輝の変化にもおそらく気が付いていないのだろう。
「分かりました。家のことは母が忙しいので通いの家政婦さんにお任せしている部分が多いので僕も家に何がしまっているか、あんまりよく分かってないんです」
夏輝は恥ずかしそうな笑みを浮かべている。「グレイス」のときは、夜に咲く花のようなどこか不健康な笑みだったが、今は年相応のお日様のような笑みなのが印象的だった。
「それでしたら病院内のローソンでそろえられたらいかがですか?街中にあるローソンと異なって患者さんが必要な物は一通り揃っていますよ?」
祐樹がアドバイスすると夏輝は驚いたように目を丸くしている。
「我々夜勤の医師は、患者さんのご家族に会うのが億劫なので、もっぱら院外のコンビニを使っています」
祐樹と夏輝の応酬を小さな花のような笑みを浮かべて聞いていた最愛の人がごく薄い紅色の花のような唇を開いた。
「祐樹たち救急救命室のメンバーはもっぱらセブイレブンだろう。病院内のローソンに行っているという話はまったく聞いたことがないので、安心して買い物をしてくださいね。明日の朝一に持ってくるか、ナースステーションに預けて帰宅し、ゆっくりお休みになってください。それと、明日以降は、主治医の田中先生にもそんなに話せなくなりますよね?有瀬誠一郎さんは祐樹が主治医を務める関係上、よく話していても問題はないのですが」
最愛の人の言うことも尤もだ。教授職は教授総回診の時しか患者を診ないという科もあるが、香川外科では医局を見回る教授だと評判になっている。しかし、患者さんはともかく見舞客に対してそれほど話をするわけにはいかない。
「そうですね」
夏輝は「しょんぼり」と身体じゅうで表現しているようだった。
「祐樹とはLINEで繋がっていますよね。私達が行くことができるかどうかお約束はしかねますが、不定愁訴外来の呉先生の診察室で待つというのはいかがでしょう?」
最愛の人の提案に祐樹は思わず目を見開いてしまった。最愛の人が呉先生と仲良しなのは知っているが、いつの間にか夏輝のことも相談していた?いや、父の誠一郎さんが救急搬送されることは彼だって青天の霹靂だったに違いない。だったら、何故そんなに手回しが良いのだろう?そんなことを考えていると、救急救命室からの呼び出しは、柏木先生はLINEで杉田師長からは電話だった。
『ちょっと!いつまで香川外科で油を売ってるの?こっちは集団食中毒で大変なんだから早く戻ってよね!』
いつもよりも甲高い声と早口に事態の重さが察せられる。
「分かりました。即座に戻ります」
通話を切った。
「そろそろタイムアップのようです。お父様の有瀬さんは我が香川外科の誇る優秀な看護師が見ていますのでご心配なく」
夏輝は何だか頼もしそうな笑顔を浮かべている。
「はい。この病院に父が搬送されて本当に心強いです。田中先生もたくさんの命を救ってくださいね。こちらは全然大丈夫なのでどうかお気になさらず」
最愛の人にウインクをした後に香川外科を後にした。それにしても不定愁訴外来の呉先生とどんな話が通っているのか気になった。夏輝のことは受診患者ではなく、最愛の人や祐樹が話し相手として落ち合うために場所を提供するのだろう。そもそも不定愁訴は入院患者の病院への不平不満を聞くというブランチで、入院患者ではない夏輝には関係のない外来だ。その辺りのことは明日にでも最愛の人に聞いてみようと思う。教授職や主治医が有瀬誠一郎氏の話を聞くのは業務だが、そのご子息の夏輝さんと長時間話すのは香川外科としてあまり褒められたことではない。
だからこそ、最愛の人は、陸の孤島と陰口をたたかれている不定愁訴外来を選んだのだろう。ブランチ長の呉先生と話し合って決めたのかもしれない。そんなことを考えていると救急救命室に着き、数人の患者さんの吐瀉物の臭いがしている。
「牡蠣に当たったみたいなんだ。ノロではなくて腸炎ビブリオだ」
柏木先生が経口補水役を患者さんに飲ませながら教えてくれた。
「なるほど、ではこの患者には解熱鎮痛剤ですね」看護師が経口補水薬を投与している発熱の高い患者さんの元に近づいた。
「ブスコパン鎮痛解熱剤、ラステックで脱水補正をしつつ様子を見ます。必要とあれば抗生剤を投与します」
患者さんは腹痛のためにのたうち回っている。牡蠣は確かに美味しいが、当たると二・三日はこう七転八倒をすることになるので、最愛の人はしっかり加熱したカキフライしか作らないのは正解だろうなと微笑ましく思い返した。
「抗生剤投与します」
看護師に告げた。
「レボプロキサシンですよね?」
間髪入れずに答えが返ってきた。流石は杉田師長が看護師だと感心してしまった。
「救急救命室では、先手先手を考えて動くのよ」というのも杉田師長の有難い教えで、それを実践しているに違いない。
「そうです。ありがとうございます」
―――――
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