- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」2
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」3
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」4
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」5
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」6
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」7
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」8
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」9
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」10
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」11
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」12
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」13
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」14
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」15
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 2
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 16
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 3
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 17
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 4
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」18
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 19
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」20
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 5
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 6
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」21
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」22
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 7
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」23
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 8
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」24
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 9
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」25
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点10
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」26
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点11
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」27
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点12
毎日更新は無理ですが、時間のある時に不定期更新します。
教授がナツキのことをどう考え、祐樹も知らないうちにどう行動したのか――
気になる読者様に読んでいただければ嬉しいです。
「そうですね。本当にありがとうございます。知り合いに二件とも聞いてみることにします。呉先生と話すだけで楽しいのに、とても参考になる話を聞けて本当によかったです。今度、このお礼にリッツカールトン京都のアフタヌーンティーに行きましょう」
リッツカールトンは大好きなホテルだが、祐樹と行った大阪の店舗では、ケーキが本場パリの味を再現しているらしく、自分の好みとは違っていた。京都は世界的メゾンが監修するパティスリーが入店していた。祐樹と大阪のリッツカールトンに行ったとき、自分たちが京都在住だと知っていたコンシェルジュの女性が特別優待券をそっと手渡してくれたことがある。「優待」や「食べ放題」といった言葉に弱い祐樹が「一緒に行きましょう」と誘ってくれたため、その店舗も含め施設は一通り試してみたが、二人の感想としては大阪のほうがが良かった。
パリ発の名門メゾンによる特別監修のケーキもさほど美味しいとは思わなかった。しかし、アフタヌーンティーはケーキだけではないので自分も食べられるだろうし、何より呉先生は脂っこいケーキも大好きだ。この華奢な身体のどこに入るのだろうかと不思議に思うほどよく食べる。だから今日の感謝を込めて、リッツカールトン京都のアフタヌーンティーに招待しようと思った。
「え!?良いのですか?ずっと行きたかったんです!ありがとうございます。でも、教授は、ナツキさんのことを田中先生に伏せていますよね?だったら、田中先生に内緒で私とケーキを食べにいく日ってないのでは?東京に行ったままの同居人はこの際忘れることにして、土日に教授と私がケーキを食べに行くと言ったら田中先生もいらっしゃいますよね?」
呉先生の現実的な指摘に、祐樹を騙しきることなどできないと思ってしまう。ちなみに、呉先生はアフタヌーンティーとケーキの区別がついていないのが不思議だ。祐樹の国際公開手術のときにロンドンで食べたはずなので、しっかりインプットされているような気がするのだが。
「香川教授、手術が午前中で終わる日はありませんか?」
呉先生は干天の慈雨に打たれたスミレのように生き生きとして、スマートフォンを「なんで変な画面になるんだよ!?」とブツブツ言いながら操作している。
「ああ、なんでこんなにちまちましているんでしょうね。広告を消す『×』がこんなに小さいのは、絶対に広告主のサイトに飛ばそうという陰謀に違いないと思います。って、こんなサイトに飛ばしやがって!!」
呉先生は普段は温和で穏やかな性格だが怒ると怖い。惚れた弱みもあるにせよ、あの「天上天下唯我独尊」を絵に描いたような森技官ですら、謝らずにはいられなくなるほどだ。呉先生がどうスマートフォンを扱ったのかあいにく見ていなかったが、自分のほうへと滑ってきた。
画面を見ると、「不動産バブルの今が売り時!京都市内に家を持っている人は勝ち組!!『私は築四十年の家売って新築に引っ越せたんです。その上、余ったお金でアルファード買えました!』という体験談を語っているのは、どこにでもいる中年男性だ。そしてその後ろには見るからに高級そうな車がこれ見よがしに載っていた。ああ、呉先生は怒るだろうなとスマートフォンの画面上、数ミリの「閉じる」と書いてある場所をタップして呉先生に返した。
「売れる人はいいですね……」
怒りを通り越して、どこか悲しげな表情を浮かべている。
「不動産バブルなどは少なくとも京都では起こっていないです。東京二十三区でも土地の価格が高騰しているのは、目黒区や港区、そして銀座のある中央区くらいです。港区でも『お台場』辺りは下がっています。大規模商業施設も閉鎖が相次いでいますし、それにあの辺りは埋め立て地なので、地震のさいの液状化現象などの災害リスクなどで敬遠する人もいるらしいです。『勝ち組』というのも怪しいですね。当たり前ですが、不動産を売った場合、税金が翌年に跳ね上がります。呉先生のように代々その屋敷を継承していく姿勢のほうが素晴らしいと思います。あの薔薇屋敷は代々の思いの詰まった家ですよね。お金では買えない価値があると思います。不動産は投資先という側面と、情のつまった守るべきものという二つの側面があります」
呉先生は頷きながら聞いていた。
「そうですよね。私もうっかり、悪徳業者のカモにされるところでした!それはそうと手術が午前中に終わる日があれば、私も『学会出席のため午後休診』ということにして、ケーキをパーッと食べに行きたいです」
自分は、一日二件の手術がルーティンだが、患者さんの体調が悪ければ手術は当然中止される。
「午後の手術がない日を調べて、LINEで送りますね。今日はとても美味しいフィナンシェと、有益なお話ありがとうございました」
長居するのも呉先生の邪魔になるような気がした。
「教授、私もナツキさんに興味があるので、ぜひ一回合わせてください」
望みは薄いだろうなと思いながら、曖昧に頷いて不定愁訴外来を後にした。
―――――
もしお時間許せば、下のバナーを二つ、ぽちっとしていただけたら嬉しいです。
そのひと手間が、思っている以上に大きな力になります。

にほんブログ村

小説(BL)ランキング

コメント