- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」2
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」3
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」4
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」5
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」6
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」7
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」8
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」9
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」10
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」11
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」12
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」13
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」14
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」15
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 2
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 16
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 3
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 17
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 4
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」18
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 19
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」20
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 5
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 6
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」21
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」22
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 7
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」23
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 8
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」24
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 9
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」25
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点10
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」26
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点11
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」27
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点12
病室のドアが開いたので振り返ると、三好看護師ともう一人、広瀬さくら看護師の姿が見えた。ちなみに久米先生の婚約者の脳外科のアクアマリン姫は清楚な美人だが、広瀬さんは「大人向け」有料動画サイトの定番の「白衣モノ」に登場しそうな、男心をくすぐるらしい艶やかな美貌と、ナース服の布地が惜しく思えるほど均整の取れた体つきだ。
医師同士、技師同士でよく話題にされているらしい。実際に告白してきた男性は既婚未婚問わず、両手の指では数えきれないというウワサもあった。ただ、香川外科の三好看護師は不倫がゴキブリよりも大嫌いという女性で、既婚者が広瀬さんに告白してきたら、一切の躊躇はせずに看護部長に報告していると情報通の柏木先生から聞いた覚えがある。祐樹はもちろん彼女の胸の大きさにも引き締まったウエストにも全く興味はない。広瀬看護師がそういう「お誘い」にほいほい乗る人なら問題だが、何でも学生時代からの彼氏がいて、その恋愛に夢中だそうだ。だから山のように来るお誘いは迷惑に思っているようで、三好看護師を防波堤、いやとても頼りにしている。香川外科でもっとも求められるのは実力で、それさえ満たしていれば、最愛の人は何も言わない。法とモラルに逸脱さえしていなければ。
広瀬さんは若手の看護師の中ではぴか一の実力と天性の勘を持っている逸材だと最愛の人と祐樹は判断している。虫よけ役を買って出た三好看護師がいるため、恋愛トラブルは全く起きていない。あんなに清楚な美人の婚約者がいるにもかかわらず、久米先生は、時折、広瀬看護師の胸元に邪まな視線を滑らせることがあった。そのたびに祐樹は、何も言わず近くにあったカルテやボールペンで久米先生の頭を叩いてきた。脳外科のアクアマリン姫こと岡田看護師と熱愛中の久米先生だが、彼女と付き合う前には「大人の」恋愛シュミレーションゲームの中の清楚な顔とあり得ないほど大きなバストの女性キャラに鬼のように課金していた。岡田看護師はいかにも清純派といった美貌だが、胸はさほど大きくないのが久米先生の唯一の不満らしかった。祐樹が頭を叩くたびに、広瀬看護師はチラリと笑顔を浮かべ祐樹に頭を下げていた。香川外科の人間の中で、彼女にそんな失礼な目を向けるのは久米先生ただ一人だと、祐樹は断言できる。
ただ、患者さんは広瀬さんを見ると「ほう」といった表情を浮かべる人が多い。最愛の人は心臓バイパス術の第一人者なので、入院患者さんは五十代以上が圧倒的に多いが、それでも広瀬さんの顔と身体には目を惹きつけられるのだろう。有瀬さんもそうなのではないかと横目で窺っていたが、三好看護師に頭を下げ、広瀬看護師に頭を下げた後に特に広瀬さんを長く見るわけでもなく興味なさそうに視線を逸らしている。
「教授、点滴の様子を見に参ったのですが」
三好看護師は最愛の人のフットワークの軽さに感心したような表情を浮かべていた。
「念のため、私が最終確認をしておきますね。薬剤を見せてください」
モニターの画面を見ながら三好看護師が持ってきたシリンジをチェックした。
「この睡眠導入剤は、ご子息の夏輝さんと少しお話してから私が注射します。今から入れるとご子息に要らぬ心配をさせてしまいますから」
三好看護師はハッとしたように目を開いてうなだれた。己の配慮不足を恥じたのだろう。彼女はナースステーションに夏輝が来るということも知っていたのだから、少し気を回せば祐樹と同じ結論に達したはずだ。
「父さん、大丈夫?」
夏輝が焦ったような表情でドアをスライドさせて、室内にいる最愛の人に深々と頭を下げ、それから祐樹、三好看護師、広瀬看護師にも同様に頭を下げた。夏輝はゲイなので、広瀬看護師の身体など完全にスルーしていた。
「夏輝、心配かけてしまって済まない。田中先生のおかげで心臓は何とか持ち直した。それと母さんは大事な商談で、明日中は現地を離れられない。入院手続きや、入院に必要な物などの準備を頼めるか?」
夏輝は即座に頷いた。
「では、奥様がこちらの病院にいらしてから容態説明をするということでよろしいですか?」
最愛の人が怜悧で落ち着いた声で確認している。有瀬氏はハッとしたように、夏輝を見ていた視線を最愛の人に戻した。
「はい。妻とは苦楽を共にしたかけがえのない人です。ですから、この病気も彼女と一緒に説明を受けたいのです。宜しくお願いいたします」
夏輝は、誠一郎氏のテキパキとした話し方に安心したのか、病室の床に崩れ落ちるように座り込んでいた。
「もう!すごく心配したんだから!田中先生が処置に当たってくれたからよかったものの、父さんのスマホから田中先生の声が聞こえてきたとき、僕は天地がひっくり返ったのかと思ったよ。でも、でも、取り敢えず無事でよかった……。田中先生、香川教授、父のことをよろしくお願いします」
夏輝は真剣な顔をして大きくお辞儀をしている。
「もちろんです。お父さまは今のところ容態は安定しています。ですので、後は我々に任せて一時帰宅なさって、病院の『入院の手引き』に記載された必要な物を揃えて、またいらしてください。お疲れでしたら明日の面会時間中でも構いません」
―――――
もしお時間許せば、下のバナーを二つ、ぽちっとしていただけたら嬉しいです。
そのひと手間が、思っている以上に大きな力になります。

にほんブログ村

小説(BL)ランキング

コメント