- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 1
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 3
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- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点 4
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」18
- 「気分は下剋上 知らぬふりの距離」 19
毎日更新は無理ですが、時間のある時に不定期更新します。
教授がナツキのことをどう考え、祐樹も知らないうちにどう行動したのか――
気になる読者様に読んでいただければ嬉しいです。
「そういえば、『グレイス』で会ったナツキですけれども、彼は頑張って英語を学んでいますね。LINEは既読スルーでいいと彼は言っていましたが、あまりにも熱心で、しかも進歩しているのが分かって、ついつい『目上の人にはその表現でいいですが、友人などの関係性だと堅苦しくなるのでこう直したらいい』と凪の時間に返信しています」
豆腐とわかめの味噌汁を満足そうな笑顔で口にしている祐樹がふと思いついたように言った。
「そうなのか?ハリウッド女優の専属美容師になる夢は諦めていないのだな」
だし巻き卵は祐樹好みの塩加減になっているか確かめ、自分でも感心する出来栄えに今日一日の幸先がいいような気がした。
「諦めていないどころか、ものすごく前向きになっていますね。『グレイス』に行く回数も減っているみたいです。美容甲子園でしたっけ?とにかく全国の美容師専門学校生が技を競って日本一を決める大会みたいなものがあるのですが、『絶対に一位になる!』とLINEで言ってきましたよ」
美容業界のことは全く知らない自分だが、ナツキの望みが叶うように何か手助けをしたかった。ナツキが言った言葉は鮮明に覚えている。「ゲイバーで意気投合した相手とホテルに行ったら他にも男がいてひどい目に遭った」とさらっと言っていた。
自分は望まない性行為はしたことがない。そもそもLAの「そういった」クラブで祐樹に似た日系人について行ったのは、日本に一生帰るつもりがなく、祐樹とは絶対に会えないと思ったこと、そして一度くらいは祐樹と性行為をしてみたかったという淡い望みを叶えたかったからだった。そして、性行為とはこんなものかと行為の最中は常に冷めていた。「また会おう。あのクラブか、この家で」と言った日系人とは二度と会っていない。
祐樹とする愛の交歓の悦楽の深さは同じ性行為だと思えないほどだった。
「顔が赤いですよ?もしかして熱でもあるのですか?体温測りますか?」
通勤用のワイシャツとスラックス姿の祐樹が心配そうに自分を見ている。まさか愛の交歓のことを平日の朝に思い返しているとは言えなくて、微笑んだ。
「いや、何でもない。体調も普段通りだ」
休日だったら祐樹もさらに質問するだろうが、出勤前の朝は慌ただしい。
「そうですか?それならいいのですが。今日も美味しい朝食をありがとうございました。せめてもの感謝を込めてコーヒーを淹れますね。貴方のように世界一美味しいとはまったく思いませんが、まあまあの味で良ければ淹れますね」
素早く立ち上がった祐樹はコーヒーメーカーに豆を入れている。祐樹はいつだって自分を褒めてくれる。日本の医師免許を取得したのちに「グレイス」の無料チケットを入院中だったオーナーに貰い出向いたあの日、片想い中の祐樹が綺麗な男性を口説いていたのを目撃し、思考停止状態でその場を立ち去った。そして、LA行きの飛行機のチケットを買って日本から「逃亡」した。
ナツキなら臆せず近づいて、あの場で誤解を解いていたか、それともあの綺麗な男性に張り合おうとしたに違いない。その強さは自分にはない。
LAのハートクリニックで腕を磨き、現地の医師免許を取得し……ああ、そういえば、人気絶頂のドラマの主演を務め、今は押しも押されぬ映画俳優の、ショーン・マッケンジー氏とは手術したのがきっかけで、今でもメールのやり取りをしている。
あの人ならナツキの夢であるハリウッド女優の専属美容師になるにはどの程度の資金が必要なのか知っているはずだ。病院の昼休みにでもメールしよう。ナツキはお金に困っている様子はまったくなかったが、「グレイス」で遊ぶのと、アメリカで学ぶのとでは、かかる金額の桁が違う。「広い家に一人でポツンといるのも寂しいから『グレイス』に来ていると言っていた。しかし、お父さまとお母さまの会社が具体的にどの程度の売り上げを出していて、ナツキの渡米費用を用意できるかどうかは分からない。
自分は公立高校の勉強と予備校だけで医学部に合格したが、中には聞いたこともない大学の医学部に入るために年間一千万円もの医学部専門予備校の代金を支払って、それでも合格できないという話もビジネス誌で読んだ覚えがある。
資産運用は、信頼できる複数人から紹介されたプライベートバンクに任せている。しかし、根が貧乏性なのか自分でも調べてみないと気が済まない。病院長命令で取材を受けたときには雑誌が送付されるが、それ以外は自分で買っているし、日本経済新聞も教授執務室での仕事が一段落したときに読んでいる。
知識は蓄積されていくが、祐樹やナツキのように人間関係構築能力に長けていないことも自覚しているし、ナツキさんの空気を読む力は、自分にとって羨望の的だ。だから、ナツキさんが頑張っているならひそかに手助けはできないだろうかと思った。それにはまず情報収集から始めないといけないなと思いつつ祐樹と一緒に病院への道を歩んだ。
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