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- 「気分は下剋上 巻き込まれ騒動」最終話
「祐樹、このニュース速報……」
トレーにコーヒーを載せてリビングに軽やかに入ってきた彼も涼しげな眼を見開いている。
「森技官がこのタイミングを狙って、白石志保にマスコミの目が集中するように仕向けたのでしょうね。ちなみに清川大臣の失言についてはまったく報道されていません。貴方もご存知のように覚せい剤は五感を研ぎ澄ます効果があります。容易に性行為との関連を疑えるので、この清楚系女優の寝室の事情もマスコミがあることないこと書くかと思います。それに、いかにもこういうことをしそうな『お騒がせ』女優と異なり……。あ、ありがとうございます」
最愛の人が洗練された所作で香り高いコーヒーを祐樹の前に置き、隣に腰を下ろした。コーヒーを一口飲むと、生き返ったような心地がした。
「やはり、貴方のコーヒーは世界一美味しいです」
祐樹は、微笑みを浮かべお揃いのカップを薄紅色の指で持った彼を見た。
「――私の知る限り、スキャンダルらしいスキャンダルが報道されていない人ですから、マスコミも集中するでしょうね。特に清楚系で売っている人のようですから、夫婦生活がどのようなものだったかきっと掘り返されますよ」
最愛の人もコーヒーを二口飲んだあとで、瑞々しい薄紅色の薔薇のような唇を開いた。
「私もこの白石志保のスキャンダルは知らないな。芸能人にはまったく興味はないが、ネットのニュースは一応見ている。そういう記事が上がったらきっと気づくので。森技官が動いた結果だろうな。性行為の際に『同じような快感を味わおう』と配偶者やパートナーに強く勧められるパターンは多いらしいし、清楚系というイメージとのギャップはきっと世間の注目を集めるだろうな……。きっと配偶者は以前から目を付けられていて、この清川大臣の失言のタイミングで逮捕されたのだろう」
最愛の人も祐樹と同意見のようだった。
「覚せい剤を一度使うと徐々に深みにはまりますよね。もし、依存性がなく、法律にも触れないとしたら……愛の交歓のアイテムとして、使ってみたいと思いますか……?」
そろそろベッドに誘うにはいい時間だろう。最愛の人は襟ぐりの深い室内着から伸びた薄紅色の長い首を横に優雅に動かした。
「違法でなくても使いたくはないな……。祐樹が毎回深すぎる悦びを与えてくれるので、祐樹、コーヒーを飲み終わったら、寝室に行こう」
潤んだ瞳が紅色の煌めきを放っている。
「貴方からのお誘い、嬉しいです。森技官と呉先生に巻き込まれた今日の怒涛の展開の精神的リセットとして、愛する貴方の肢体を味わわせてください」
コーヒーの香りのする唇を重ねた。
「私も同じ気持ちだ。愛する祐樹と抱き合って、今日のことが、遠い過去にも思えるようにしてほしい……」
紅色を濃くした唇が紡ぐ言葉は、祐樹を花の蜜で誘っているような色香に満ちていた。
「喜んで……」
もう一度唇を重ねた。これは愛の交歓の前菜のような口づけだった。
<完>
―――――
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