「え?うーん……下手というか、オレの反応を見てないよなって感じるんです。人によって感じる場所は異なりますよね?それなのに、マニュアルがあるのかどうかまでは知らないんですけど、どっかで習ってきたお手本通りって感じなんです。下手というのは言い過ぎだったかもしれませんけど、アイツが田中先生を挑発しているのは分かりましたから、オレも便乗させてもらったんです。日ごろの不満を言ってちょっとはすっきりしました」
最愛の人は寒さのせいで紅くなった端整な顔に怪訝そうな表情を浮かべて祐樹と呉先生の会話を黙って聞いている。先ほど森技官がやらかした現場を、最愛の人は見ていないからだろう。そして、何より自分が口を挟むべきではないと思っている。そういう奥ゆかしい人だ。
それにしても「そっち」の面でも自信満々そうな森技官が、実はマニュアル人間だったというのは何だか可笑しい。森技官は、新宿二丁目でもある意味有名な人なので百戦錬磨の技巧を持っているかと漠然と祐樹は思っていたが、どうやら異なるらしい。まあ、見てくれはいいし、着ているのもアルマーニなのでそれなりに人気はあるだろうが。
「ちなみに、ちょっとウザいんですけど……、あの丸まったダンゴムシを慰めるとしたら――どう言えばいいですか?」
祐樹も隅っこで丸くなっている森技官を、黄色いダンゴムシみたいだと思っていたので呉先生との意見の一致が何だか嬉しい。最愛の人は二人の視線の先にいる森技官を何か不思議なものを見るような目つきで眺めている。
「それ以外は満足している、とでも言うしかないですね。あとはサイズが大きいとか」
祐樹のアドバイスに素直に頷き、足早に去っていく呉先生を見送った祐樹は、何故最愛の人が森技官のやらかしを見ずにイルミネーションを鑑賞していたのか気になった。そもそも彼は、言葉こそ少ないものの、他人の話や言動を注意深く汲み取っている人だ。
「呉先生のちょっとした失言で、森技官が想像以上に傷ついたみたいなのです」
まさか口戯が下手と言ったとはさすがの祐樹も言えない。
「そうなのか?傷つく言葉は人それぞれだから仕方ないような気がする。しかし、森技官があんなにも分かりやすく拗ねているのは、恋人に構ってほしいという気持ちの表出だろうと思う。だから、早めに呉先生が修復を試みるのがベストだろうな」
怜悧な声が青いイルミネーションの光の中にひときわ煌めくような気がした。
「そうですね。ダンゴムシ状態は構ってほしいというボディランゲージでしたか。そこまでは思い至らなかったです。ところで、貴方は森技官の話よりもイルミネーションを見ることを優先されていましたよね。じっくりと眺める価値のある見事なものだとは思いますが、他に理由でもあったのですか?」
最愛の人に祐樹の言動が無視されたら、きっと地の底まで気持ちは落ち込むだろうが、相手は森技官なのでどうでもいいといえばそうなのだが気になってしまったのだから仕方ない。感情を乗せずに質問した。
「ああ、そのことか。イルミネーションがこんなにたくさんあるのが見事だと思ったのも事実なのだけれども、森技官が話していたのは兵庫県知事や兵庫県政の話題だっただろう。森技官が官僚として興味を持つのは分かるが、京都府や京都市の問題ではない以上、私にできることは皆無だと思った。冷たいかもしれないが、私には兵庫県のことまで考えている余裕などない。そんな時間があったら、祐樹のことをもっと深く想いたいのだ」
薄紅色の唇が極上の言葉を紡いでくれた。辺りを見回し、呉先生はいわゆる体育座りをし、森技官と視線を合わせて何かを話している。それ以外に人はいないのを確かめた後に唇を重ねた。それだけでは足りないような気がして、衣服で隠されている胸の二つの尖りを親指で弾いた。
「続きは、天蓋付きのベッドの上で。愛しています」
深海にいるような錯覚を抱く青のイルミネーションを背景にしなやかに跳ねる肢体が綺麗だった。それに、有権者としての権利を持っている京都府や京都市のことに対して情報収集するけれども、他県のことには関わらないという最愛の人の価値基準にも納得だ。いうまでもなく最愛の人も祐樹も国家公務員でもなく、ジャーナリストでもないのだから。
「そうだな……二人きりになるのが愉しみだ……」
最愛の人もさり気なく周りを見てから、コートのボタンを外している。
「祐樹、ここから手を入れて確かめてほしい」
セーターの裾を誘うように持ち上げている指も、青く煌めいているようだった。そしてちらりと見える素肌は雪のように白かった。
「手袋越しでは気が引けますね」
祐樹は手袋を脱いで滑らかな素肌を上へと辿った。なるべく寒くないように、露出する素肌を最小限にし、確かな温もりと彼の柑橘系の香りを手でも慈しむように、そして、熱い視線は絡ませたまま、右手は尖りに到達した。その慎ましい突起を親指と人差し指で摘まむと最愛の人は紅色のため息を零した。
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