「田中先生は、――高校のときは当然存じませんが、この病院で勤務なさった時から身体のサイズは変わっていませんよね?研修医としてこちらに配属されたときから見ていますが全くお変わりになっていません」
医局のドアの前でそう言われ、確かにそうだなと思った。
「はい。学生時代に穿いていたジーンズも入ります」
三好看護師は羨ましそうな表情で祐樹の身体を見ていた。
「私なんてスカートのボタンが留められないものもたくさんあります。スタイルが変わらない秘訣はありますか?」
久米先生は論外として、ダイエット問題は誰しも頭を悩ませるものなのかもしれない。
「特に運動はしていないのです。救急救命室で血の海の中を走り回ることくらいでしょうか。後は夜食にカロリーの低いものしか食べないとかその程度しか意識していません」
呉先生の不定愁訴外来の庭から見た川口看護師のようなトレーニングは全くしていない。
「……やはり私は、ジムに通うべきかもしれないですね」
そういう体型には見えない。むしろ三好看護師はすらっとしている。
「そうですか?ジムに通う必要のないような気もしますが、体を動かすのは大切ですよね」
女性のスタイルに言及しすぎるとセクハラだと言われてしまうので、細心の注意が必要だ。何しろ最愛の人は教授会でセクハラ禁止令の厳格化を議題に上げると言っているのに、その医局員がセクハラをしたと疑われたらたまらない。
最愛の人は最高の美味だと祐樹が思っている料理を作ってくれるが、野放図に食べてしまうと太ってしまうので自制はしている。さらに、彼の料理は野菜中心のヘルシーなものだ。
最愛の人は祐樹のことを顔やスタイルで好きになったと言っていない。口に出して言わないが、彼が恋に落ちてくれたこの体型は維持したいと思っている。祐樹は知らなかったが彼はキャンパスにいる祐樹に一目惚れをしたと聞いている。
「それでしたら、高校時代の制服も楽に入るでしょうね」
三好看護師はどこか羨ましそうな表情だった。
「制服は実家においてあるはずですが、多分入ると思います」
祐樹の母は、記念のものを捨てずにとっておく人なので、祐樹の学ランもどこかにしまってあるはずだ。
「それでしたら、高校生役も務まります。催し物の日に暇を見つけて小児科に見に行きますね」
三好看護師にそう言われると悪い気はしない。
「三好先輩、少しお聞きしたいことがあるのですが」
滝看護師という新人ナースが遠慮がちに声をかけてきた。
「では、私はこれで失礼します」
祐樹は、医局のドアをスライドさせて室内に入った。体型は三好看護師のお墨付きを得たのもとても嬉しい。女性の見る目はかなりシビアだからだ。そして祐樹は童顔だと自覚している。あとは肌艶のよさの問題だが、最愛の人にストレス解消を手伝ってもらおう。二人の不文律では平日の愛の交歓はしないと決めている。フルコースだと時間はかかるし、最愛の人の極上の花園に直接白い蜜をばら撒いている。その後始末も祐樹には楽しい時間だったし、彼も直接を望んでいる。医学的なリスクを当然考えてはいるだろうが、それでも、「直接して欲しい」という彼の愛情も大好きだ。
「ただいま」
いつものように午前三時に帰宅し、最愛の人を起こさないよう小声で言った。玄関の靴箱の上に置いてあるアルコールで手指を消毒し、洗面所に入った。イソジンでうがいをしたのち、共用の歯磨き粉を使って歯を磨き、洗顔するのがいつものルーティンだ。その後、鏡に映る自分の顔をしげしげと見た。普段はそんな面倒なことはしない。高校生の肌艶……呉先生は周りに子供がいないと言っていたが、祐樹も高校生に知り合いなどいない。年が近いのは夏輝だろうが、彼の肌はやはりつやつやしている。
ゲイバー「グレイス」に男性を見つけに来る人は、化粧水どころかパックまでしているという話を聞いたことがある。たまに行くコンビニに男性用のスキンケア商品が売っているのも知っていた。ただ、コンビニ商品としては高めの値段だが最低限の手入れはすべきだろうか?
「祐樹、お帰り」
純白のシルクのパジャマを身に纏った最愛の人が鏡に映り込む。何だか一緒に写真を撮っているような気がして心が弾む。
「ただいま帰りました。起きていて大丈夫なのですか?」
睡眠時間が短くても済む祐樹と異なり、最愛の人は七時間程度の睡眠が必要だ。祐樹が知っている中で最も卓越した頭脳の持ち主なだけに脳の疲労も常人とは異なるのだろう。そういえば甘いモノが好きというのも脳が要求しているのかもしれない。とはいえ、生クリームやイチゴに、脳のエネルギー源であるブドウ糖が含まれているかどうかまでは知らない。
「祐樹がなかなか寝室に来ないので、途中で寝てしまってるのではないかと心配して見にきた」
最愛の人にそう言われるとぐうの音も出ない。祐樹は墜落睡眠が得意なので、どこでも寝られる。しかし、そのせいで風邪を引く可能性もあると最愛の人は気遣ってくれたに違いない。
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