「気分は下剋上 イルミネーション 2025」11

「気分は下剋上」イルミネーション 2025
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This entry is part 12 of 15 in the series 気分は下剋上 イルミネーション2025

 最愛の人はカシミヤのコートに包まれた少し細い肩を竦めて淡い笑みを浮かべている。まるで夜に咲く純白の薔薇のような風情をまとっていた。
「祐樹と二人でこんな綺麗なイルミネーションを見るのも、とても楽しい。しかし私は修学旅行に行っていないと祐樹に話しただろう。特に高校のときにはディズニーランドだったので、皆でパレードを見たり乗り物に乗ったりしたらしい。その修学旅行中にも、色々なハプニングが起こったと聞いている。今回の呉先生の件は、こんな感じで楽しく旅行したのだろうなと思えて別次元の楽しさとして面白い」
 最愛の人は心臓病で療養中のお母さまが心配で修学旅行や林間学校といった学校行事に参加していないのは祐樹も知っていた。彼本人の選択だったので何も言う資格はないのも分かっている。しかし、旅行から帰ってきたクラスメイトが感想や出来事を大声で語り、その声が彼の耳にも入るというのは十分にあり得る。その時に寂寥感や疎外感を覚えたのだろう。
「そうですか。それなら良かったです。ちなみにディズニーランドに興味はありますか?」
 祐樹自身は特に行く気はなかったが、最愛の人が行きたいなら喜んで旅の計画を立てようと思った。
「いや、テレビで時々映されるだろう?その場に行けば楽しいのかもしれないが、画面越しに見ると、いかにも『これでお前たちは楽しむのだろう?』と運営会社に見下げられている気がして行きたいとは全く思わない。あ、もちろん祐樹が行こうと言ってくれれば喜んで行く」
 最愛の人の薄紅色の唇が真っ白い息とともに言葉を紡いでいる。その白い息が緑色のイルミネーションに照らされてとても綺麗だった。
「私も全く興味がないので、行く気はないですね。ああ、そろそろ手袋をしたほうがいいですよ」
 緑色に染まった、細く長い指も綺麗だった。まるで深海に棲む神秘的な魚が、潜航艇のライトで照らされたような風情だ。ただ、見ているだけなら綺麗で済むが、この外気温を考えると、しもやけになったら手術に差し支えが出る。あってはいけないことだが、インフルエンザに罹ってダウンしたという理由ならまだ患者さんは納得してくれるだろうが、しもやけと聞いたら患者さんは非常にがっかりするか、もしかしたら怒りだすかもしれない。
「そうだな。うっかりしていた」
 光沢のあるカシミヤのコートのポケットから黒い革の手袋を取り出して身につけている。この黒い革の手袋も彼が「教授職として無難だ」と判断し愛用している老舗ブランドの品物だが、はめたままでも本のページがめくれる点で祐樹も気に入っている。救急救命室の近くに最愛の人しか知らない祐樹の隠れ場所があって、そこで読書をする習慣があった。最も気に入っている場所は、京都には山のようにある小さな神社の境内で、夜中に怪談などを読むと臨場感も相俟ってとても楽しい。
「教授、新しいのを買ってきました!」
 呉先生の軽やかな声に振り向くと黄色のモフモフとしたコートを着た呉先生と森技官の姿があった。
「そしてこれはほんのお詫びです」
 呉先生がアメリカンドッグを一本最愛の人に差し出している。
「え?お詫びを言われるようなことはしていませんよ」
 最愛の人はむしろ迷惑そうな表情だった。とはいえ、その表情の変化は微細なものだったので、祐樹以外は気づかないだろう。
「森技官、好きな食べ物は何ですか?」
 ふと思いついて聞いてみた。森技官は兵庫県庁に潜入していると聞いている。だったらこの問いには高確率で返すセリフがある。
「全ての食べ物を美味しく頂いています」
 祐樹の想定通りの答えが返ってきてある意味嬉しい。
「だったら、アメリカンドッグも美味しく頂いてください」
 敬語の間違いはもちろん意図がある。森技官は一本取られたような悔しげな表情を浮かべた後に呉先生からホカホカと湯気の立つアメリカンドッグを受け取ってしぶしぶという様子で口に入れている。
「――ここだけの話なのですが、例の知事はナッツ類が食べられないそうです。アレルギーというわけではなくて単純に嫌いなのでしょうね。支持者の差し入れを装ってナッツ類だけが入った贈り物をしようかという動きも市民団体は考えているようです」
 祐樹は二回しか見ていないがYouTubeの音声でも「知事辞めろ」コールは大音量で響いていた。それだけの熱量があるのならナッツ類だけを選んで送るのは簡単そうだ。定例会見は毎週行われていると兵庫県のサイトに載っていた。そして制限時間は一時間で、それが短いか長いのかまでは祐樹も分からない。
「それは何かの法律に触れないのか?」
 呉先生は先ほどの件で懲りたのか、アメリカンドッグに息を吹きかけて冷ましながら聞いている。
「厳密には抵触しますね。公職選挙法で候補者や公職者に対してケーキなどの差し入れなども駄目だという判例もあります」
 最愛の人は呉先生に解説している。祐樹としてはケーキくらいいいのではないかと思うが、公職選挙法はまるっきり知らない。森技官も感心したような表情で最愛の人を見ている。
「それはそうなのですが、あの知事なら受け取るような気がします。特に女性からの差し入れなら喜んで食べるでしょうね。支持者の女性は40代から50代が多いというデータがあります。しかし、県庁内の噂では若くて美人の人が好きらしいので、面が割れていないそういう女性にナッツ類をプレゼントし、『一緒に食べましょう♡』など言わせるのも効果的ではないかと思います」

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 こうやまみか拝

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