「呉先生をハロウィンの仮装に誘うだけなら私だけでも大丈夫だと思うのです。今夜川口看護師が快諾してくれたでしょう?皆がしているというのは、心のハードルを下げますからね。しかし、呉先生を浜田・内田教授へのお披露目を兼ねていますよね、来るべき精神科の教授選に向けての。それは正直なところ荷が重いので、出来れば貴方に手伝って欲しいのです」
森技官の浮気疑惑で家出をした呉先生をこの部屋に招き入れ、駆けつけてきた森技官と三人で、呉先生に教授職を目指してほしいという説得をした。そのときに最も舌鋒鋭く切り込んでいたのは最愛の人だ。教授職はその医局で決まるのが大学病院の不文律だが、他科の教授と仲が良いというのは絶好のアドバンテージなのは祐樹も知っていた。
「分かった。明日の12時に不定愁訴外来で会うことになっているので、そこで合流しよう。教授選にも有利に働くだろうから、呉先生の催し物への参加を二人で強くプッシュしよう」
最愛の人は、鍋焼きうどんの細く切ったネギを口に運びながら静謐な口調で告げた。正直なところ、小児科ハロウィンのイベントで呉先生の役どころはさほど重要ではない。印象的なキャラだが、アニメの出番は少ないし、レギュラーとして出ているわけでもない。川口看護師の役はラスボス的な存在なので不可欠だが、呉先生はそういうわけでもない。しかし、主催者である浜田教授はもちろんのこと絶対に見にくる内田教授と知り合いになっておいたほうが呉先生の教授職のポストにまた一歩近づくのは確かだ。
そういえば、川口看護師も真殿教授に対する揶揄めいた言葉が増えたなと思い至った。もともといい感情を持っていないのは知っていたが、今夜は顕著だった。森技官も病院の内外で呉教授を目指して動くと言っていたので、その成果が着々と実りつつあるのだろう。
「このうどんの出汁は最高に美味しいです。それに鶏肉も噛むとジュワっと口の中に広がって。貴方の作って下さる料理はどれも最高に美味ですが、この鍋焼きうどんはリッツのルームサービスのものよりも好きですね」
最愛の人は誇らしく咲いた大輪の紅薔薇のような笑みを浮かべている。
「そろそろ貴方の就寝時間ですね。愛の交歓のあとで料理をさせてしまったお詫びに片づけは私がします。貴方は眠る準備をなさってください」
最愛の人は、祐樹が褒めたせいで部屋着はいつも襟ぐりの深いものを着ている。生活のメリハリをつける几帳面な彼は室内着とパジャマは分けている。祐樹は一人暮らし時代にはTシャツと短パンで寝ていたのだけれども、一緒に住むようになって寝るときはパジャマに着替えるのが習慣になった。
「ありがとう、祐樹。そうさせてもらう」
ソフトクリームのような色の室内着から紅色の首筋や健康的な鎖骨が匂いやかに見えていて、それも最高の眺めだった。
「愛の交歓の後だからでしょうか?貴方の素肌は、よりいっそう艶やかですね」
最愛の人は少し困った感じで笑った。
「私の肌艶よりも、肝心なのは祐樹だろう?ただ、確かにいつもよりもつやつやしている……」
まじまじと祐樹を見つめる最愛の人は、満足そうに笑みの花を咲かせていた。
「そうですか?川口看護師の説が当たりましたね」
いったん会話を切って使った食器をトレーに載せて運び、手で洗った。食洗器を使ってもいいのだが、最愛の人が普段は手洗いなのでそれに倣った。
「祐樹のパジャマはベッドの上に置いておいた。――シーツなどは洗濯機の中だ……」
そう告げる最愛の人の頬が紅いのは、シーツ類を白濁液などで濡らしたという愛の行為のことを思い出したに違いない。そして、純白のシルクのパジャマはトロリとした感じで素肌に沿っている。先ほど祐樹が丹念に育てた胸の二つのルビーが布地を押し上げている。シルクの生地が厚いので色までは見えないが、それでもなお祐樹の視線を惹きつける。
ゲイバー「グレイス」で聞いたことがある「乳首を丹念に愛撫されると感度も上がるけれど大きくなる」という「証言」、前者はその通りだと祐樹も思うが後者は違う。最愛の人の肢体が特別なのかもしれないが、いくら愛しても小さくて可憐なルビーのようだった。
「ありがとうございます。では歯を磨いて寝室に行きますね」
「家事終了」の合図に最愛の人の花よりも綺麗な唇にキスをした。最愛の人の唇からミントの香りがふわりと立ち上ったのは歯磨きをしたからだろう。髪の毛の香りも祐樹と同じシャンプーを使っていて、同じ香りを漂わせている。ただそれだけなのに、幸せの具現化のようだった。
実は寝室というある意味ロマンチックな場所で最愛の人に告げたい言葉があった。
「そのシルクのパジャマもよくお似合いですよね?」
祐樹は彼が用意してくれた青いパジャマに着替えながら言うと、本を読んでいた最愛の人は祐樹のほうへと上体を起こしてくれた。愛の交歓の余韻かサイドテーブルに新書を置く指先にも甘く薫るような色香を感じる。
「そうか?祐樹にそう言ってもらえると嬉しいな」
最愛の人の肢体の隣に横たわって天使の羽根のような色のパジャマの、ツンと布地を押し上げている場所を軽く触った。
「見えないのも想像力を刺激されて良いのですが……愛らしく尖った紅い色を、指だけではなく目でも確かめたいですね。いや、今ではないです」
最愛の人の紅色の指がボタンに掛かるのを手で制した。
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