帰宅した後に祐樹はミネラルウオーターを飲んでいる最愛の人に告げた。
「先にシャワーを浴びてもいいですか?」
薄紅色の唇に宿った水滴が小さな煌めきを放っている。
「それは全く構わない」
彼が唇を動かすと煌めきが増したような気がする。バスタブには適温のお湯が満たされていることを確認したのちにシャワーを浴びていると、浴室のドアが控え目な音でノックされた。
「祐樹、一緒に入っても……?」
ホテルの客室では一緒に入ることもあるが、この部屋では珍しい。しかも最愛の人からそう申し出てくれるのは望外の喜びだ。
「もちろんです。どうぞ」
ドアを開けると、ワイシャツしか身に纏っていない最愛の人の肢体が目を、そして心を射るようだった。心に刺さった棘が雲散霧消していくような気がした。彼は細く長い指をしなやかに動かして着衣を床に落としていく。綺麗なピンク色の胸の慎ましやかな尖りも、そしてまだ兆していない下半身も薄紅色の大理石の彫像のように綺麗だった。
「湯舟に浸かってくださいね。万が一にも風邪を引いたら困ります。貴方は、コーヒーショップで『教授職には替えが効く』とおっしゃいましたが、外科医としては唯一無二の存在です。そして、私にとって貴方は最高の恋人です」
シャワーを止め、彼の端正な顔に強い視線を当てる。すると彼の顔は日に照らされた紅色の大輪の薔薇のような感じになってとても綺麗だった。
「分かった。そうする……」
彼がバスタブをまたぐさいに、白桃のような双丘が割れ、固く閉じた花園の門が見えてドキリとした。
「愛の交歓のときに、愛らしく収縮を繰り返す様子も素敵ですが、誰も何も受け入れていない花園の門も心をそそられます」
胸までお湯に浸かった最愛の人はどこのことを言われたのか察したのだろう。濡れた赤薔薇のような頬になった。
「しかし、その極上の花園は、愉しむことを充分に知っていますよね。コレ、で」
祐樹が、まだ充溢していない自らの愛情と欲情の象徴を指で揺らした。
「知っている。今夜は祐樹と一緒なので、満たしてもらえるかと期待しているのも事実だ」
情欲に濡れた瞳がとても綺麗だった。
「――万が一コレを失ったら、貴方は蜜を求める蝶のようにひらりと飛んでいくのでしょうね……」
筋骨隆々という具体的なことは何故か言えなかった。最愛の人は切れ長の目を大きく見開いている。
「祐樹を迎え入れる場所は、当然ながら他の人に許すつもりは微塵もない、な」
そうなのだろうかと疑念を持ってしまうのは今夜の心に刺さった棘のせいだ。それにゲイバー「グレイス」の客同士の会話で、いったん開発された身体は切なく火照るものだとも聞いている。祐樹が丹精を込めて愛した場所は華麗かつ淫らに開花していることは知っていた。
「そうでしょうか?」
我ながら駄々っ子みたいだと思ったものの、一度口に出したものは仕方がない。
「私の心と身体は祐樹しか欲しくない。億が一にでも、祐樹を失ったとしたら、深海に棲む魚が目を失っているように機能全体を遮断するだろうな。祐樹だけ求めているこの身体なので、それ以外の人は不要だ」
怜悧な眼差しが切々とした煌めきを放っている。その綺麗な光が、祐樹の心の棘をそっと溶かしていくようだった。
最愛の人は湯舟に浸かったまま祐樹の顔と身体を見ている。とはいえ、先ほど指で持ったモノには恥ずかしそうに視線を外しているのも新鮮な魅惑に満ちている。
「愛する聡、バスタブから出てください。久しぶりにシャンプーをして差し上げます」
シャワーを済ませて彼を呼ぶと期待と落胆めいたため息を零した彼は紅色の唇を震わせていた。
「祐樹の指で頭皮をマッサージしてもらうのは本当に気持ちが良いのも事実だけれども、もっと気持ちの悦いことがある……」
彼からのお誘いほど嬉しいものはない。
「シャンプーののちに存分に愛して差し上げます。この二つの愛らしい胸の尖りもルビーのように固く綺麗になりますよね」
祐樹の視線に焙られたようにツンと尖って硬度を増していくのを見ることができるのも祐樹だけの特権だ。
「祐樹、頭頂部をもっと強く押してほしい」
シャンプーをしっかり泡立てて頭皮を刺激していると、最愛の人の薄紅色の肢体が祐樹の身体へと反ってくるその様子は、高貴なシャム猫のようだった。
「こうですか?」
指でもみこむように押すと満足そうなため息が浴室のタイルを紅色に染めていくようだった。
「愛の交歓はここでしますか?それともベッドがお好みですか?」
最愛の人にとって祐樹は特別で格別な存在だと聞くことができた今は、心は春風に乗っているような気がした。
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