2025-09

◯◯の秋 2025【完】

「気分は下剋上 ○○の秋」10

「焼き栗?祐樹と行った花火大会の屋台に『天津あまつ甘栗あまぐり』が売っているのを見た覚えはあるが、りんご飴に気を取られて結局買っていないな」 きのこの山を弾む指先で摘まんで口に入れた最愛の人の無邪気な笑みを見ながら、「あま...
「気分は下剋上 知らぬふりの距離」

「気分は下剋上 知らぬふりの距離」47

 執刀医も兼ねている祐樹は患者さんとの長い時間のコミュニケーションは不可能なので、移動の時間も時短を心がけている。「田中先生、三分お時間宜しいですか?」 三好看護師が小さな声で祐樹を呼び止めた。一般的な会社に在籍したことはないので...
月見2025【完】

「気分は下剋上 月見2025」5

「この旅館か。雑誌に『中秋の名月に行きたい旅館 トップ5』としてランクインしていたな」 最愛の人はビジネスパーソン向きの経済雑誌を読んでいるのは知っていた。おそらくその雑誌に載っていたのだろう。「そうなのですか?具体的にど...
「気分は下剋上 知らぬふりの距離」

「気分は下剋上 知らぬふりの距離」46

「有瀬さん、お加減いかがですか?」 夏輝の父・有瀬誠一郎氏の主治医として病室のドアを形ばかりノックしてスライドさせた。ベッドに半身を起こしていた有瀬氏は祐樹をちらっと見た後、ドアの向こうに誰かがいるように視線をさまよわせている。「...
◯◯の秋 2025【完】

「気分は下剋上 ○○の秋」9

 無邪気な弾んだ声が車内を春色に染めていくようだった。几帳面な彼が珍しくキッチンのテーブルに置きっぱなしにしていた「遠足のお菓子リスト」は、祐樹に見せるためではないのだろう。 あの夜キッチンに足を運んだのは急に喉が渇いたからだった...
月見2025【完】

「気分は下剋上 月見2025」4

 最愛の人は部下思いなので、真っ先に久米先生の話題が出てくると祐樹は予想していた。しかし普段以上に食べるのが早い彼はよほどお腹がすいていたのだろう。「執刀経験を積ませたほうがいいと思いますが、手術室はキャパオーバーですし、...
sira

「気分は下剋上 知らぬふりの距離」教授視点27

「私はまだ大丈夫ですが、貴方は眠そうですよ。明日も仕事なのでお休みになったほうがいいかと思います」 祐樹の低い声が夜も更けたキッチンにしめやかに響いた。「そうだな。祐樹が帰宅する午前三時は眠りが自然と浅くなって帰宅した気配を嬉しく...
sira

「気分は下剋上 知らぬふりの距離」45

 困ったように祐樹を見、頷きを返すと今度は呉先生の表情を確かめている。呉先生も淡いスミレ色の笑みを浮かべているのを確かめた夏輝は真剣な表情に変わった。それぞれの反応をうかがってから決める点が「空気を読む」夏輝の本領発揮とい...
◯◯の秋 2025【完】

「気分は下剋上 ○○の秋」8

「祐樹は軍手だけで良いのか?」 彼が描いたように綺麗な眉を寄せている。軍手だと心もとなく思ったに違いない。当たり前だが手を始めとして身体の怪我を負ってしまえば仕事に差し支える。「物心ついた時から山や海を走り回っていましたか...
月見2025【完】

「気分は下剋上 月見2025」3

「田中です。お呼びにより参りました」 数えきれないほど来ている最愛の人の教授執務室のドアをノックした。教授執務階の廊下は絨毯もふかふかだったが、行きかう教授はともかく叱責のために呼び出された医師の顔は悲劇的な表情だった。祐樹の前を...
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